1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「拘禁刑」来年6月導入控え、対人スキル養う刑務作業…円滑な社会復帰につなげる狙い

読売新聞 / 2024年11月1日 14時21分

 懲役刑と禁錮刑を一元化した「拘禁刑」の導入を来年6月に控え、法務省は、受刑者同士が議論して対人スキルを養う刑務作業を試行している。単純な工程を黙々とこなす従来の作業では、実社会で必要な力が身につきにくいためだ。高齢受刑者には体力維持のため運動の時間を設けるなど、個別の事情に応じた処遇も始めており、出所後の円滑な社会復帰につなげる狙いがある。(足立壮、林信登)

自発的に意見

 高松刑務所(高松市)で8月下旬、男性受刑者4人がテーブルを囲んで座り、真剣な表情で議論していた。テーマは、普段の刑務作業で行う洋服の裁縫作業をより良くする方法だ。

 受刑者の一人から「縫い合わせる前の布の各パーツが交ざらないよう、まとめて置いておく箱が必要」との意見が出て、他の受刑者も賛同。各自が箱のサイズや個数、刑務官から許可をもらう手順などを付箋に記し、模造紙に貼り出して議論を深めた。

 昨年度に始まった法務省の「コミュニケーション能力等向上作業」の一場面だ。

 受刑者らは3か月間で計10回参加する。これまでに24人が受け、作業後は、毎朝のミーティングで「中だるみしないように」「前日の失敗を生かそう」など自発的な意見が出るようになったという。昨夏に参加した男性受刑者(46)は「いろんな価値観や考え方があると初めて意識できた」と振り返る。

 担当刑務官は「自由時間を使ってコミュニケーションに関する本を読む受刑者も出てきた」と変化を実感している。

雇用続かず

 法務省は昨年度から、高松刑務所、静岡刑務所(静岡市)、佐賀少年刑務所(佐賀市)の3施設でこの作業を試行。今年度は倍以上に増やし、来年度は全国のほぼ全施設で実施予定だ。

 受刑者の年齢や障害などに合わせた処遇も進む。一部の刑務所では、高齢受刑者の身体機能の維持を目的に、自転車型トレーニングマシンなどを使ったり、知的障害などがある受刑者向けに認知機能を高める「脳トレ」をしたりしている。

 背景には、製品の組み立てなど従来の刑務作業が出所後に生かされていない実情がある。

 法務省が2018年、出所者を雇う協力雇用主に行った調査では、雇った出所者の約5割が半年以内に辞め、5年を超えて続いたケースは5・8%。「言われたことしかしない」「同僚とトラブルを起こす」などの声があり、「就労する上で必要な基礎的能力を(刑務所で)身につけさせてほしい」との意見が出た。

 こうした中、22年6月、改正刑法が成立し、拘禁刑の導入が決定。今後は、より柔軟な処遇が可能になる。

 法務省の検討会は22年7月、「コミュニケーション能力や課題解決能力など、社会人に求められる能力の向上を図り、受刑者の年齢や障害などに応じた処遇を充実させる」との方針を表明。同省の担当者は「幅広いカリキュラムを準備していきたい」と語る。

刑務官の負担増

 これまでよりきめ細かい処遇が求められ、刑務官は負担が増す。さらに、教育や職業訓練などの資格を持ち、指導的な役割を担う専門技官も、これまで以上に大きな役割を求められる。

 法務省は、外部の専門家や民間団体との連携を図る考えだが、ある刑務所関係者は「受刑者一人一人に十分対応できるだろうか……」と不安がる。

 同省の検討会の委員を務めた山口県立大の水藤昌彦教授(司法福祉)は「心理学や福祉を学んだ刑務官を増やし、チームとして処遇を充実させることが重要だ」と語る。

◆拘禁刑=受刑者を刑事施設に拘置し、更生のための必要な作業や指導を行う刑。従来の刑務作業を一定維持しながら、各受刑者に応じた処遇が可能になる。導入に伴い、従来の懲役刑と禁錮刑は廃止される。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください