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「フリーランス新法」は好きな仕事で生きる人々を救えるか? 収入が減っても幸福度は高い/マイナビ・元山春香さん

J-CASTニュース / 2024年10月31日 20時9分

「フリーランス新法」は好きな仕事で生きる人々を救えるか? 収入が減っても幸福度は高い/マイナビ・元山春香さん

ネットを活用して自宅で働くフリーランス(写真はイメージ)

組織に属さず働く、弱い立場のフリーランスを保護するための「フリーランス新法」が2024年11月1日から施行される。

フリーランスの人たちは、どのくらい新法に期待しているのか。就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年10月21日に発表した「フリーランスの意識・就業実態調査2024年版」によると、3人に1人が「法律を味方にできる」と期待する一方、5人に1人が「期待できない」と答えた。

元会社員でフリーランスという働き方に満足している人が6割を超える。もっと働きやすくなるにはどうしたらよいか。調査をまとめたマイナビの元山春香さんに聞いた。

増える「自由度」「幸福度」「自己肯定感」、減る「収入」「業務量」「ストレス」

厚生労働省の調査によると、フリーランスで働く人は462万人にのぼり、業種はIT関連やライター、配送業、芸能タレントなど多岐にわたる。

新法では、発注企業と業務委託された個人との取引適正化を進める。企業に業務内容や報酬額を書面やメールで明示させトラブルを防止。商品納入から60日以内の報酬支払いを求める。企業はハラスメントの防止や相談体制を整備する義務がある。また、育児や介護を続けながら働けるよう配慮しなければならない。

マイナビの調査(2024年8月23日~27日)はフリーランスとして働く20歳~69歳の1000人(独立系776人、副業系224人)が対象だ。

元会社員(正社員)でフリーランスとして独立している人に、働き方の違いを聞くと、(会社員時代より)増えた項目の上位に「仕事の進め方の自由度」「私生活の幸福度」「自己肯定感」が並んだ。対して、減った項目の上位に「収入」「業務量」「仕事上のストレス」が並び、「収入」以外の面では私生活が充実している様子がうかがえた【図表1】。

収入(年収)の増減は職種によってさまざまだ。具体的な金額をみると、「ITエンジニア・開発系」は平均で約73万円増加、一方、「編集・ライター・印刷系」は約95万円減少している【図表2】

働き方の満足度を聞くと、全体の6割以上(62.1%)が「満足」と回答。働き方に満足している人が多いことがわかる。興味深いことに、年収が一番減少している「編集・ライター・印刷系」の満足度が約7割(68.1%)と最も高い。【図表3】。

フリーランスとして働くうえでの不安は、やはり「収入に波がある・不安定」「収入額が少ない」「老後の心配」が上位に並んだ。直近1年間の最高月収は平均53.5万円、最低月収は平均11.3万円と、収入におおきに波がある結果に【図表4】。

さて、フリーランス新法にはどの程度期待を寄せているのか。

フリーランスとして独立し、業務委託で働いている人に、金額などの条件面で取引先と交渉できる余地があるかを聞くと、6割以上が「交渉の余地がある1」と答えた。しかし、2割近くが「交渉の余地がない」と答え、取引先に主張をすることが難しい人も一定数いる。

そこで、新法への期待感を聞くと、35.0%が「総合的な働きやすさの向上」に期待できると回答した。また、要素別では「契約トラブルの防止」(37.8%)への期待が最も高かった。しかし、「期待できない」とする回答も2~3割あった【図表5】。

個別の意見では、「発注先が有利なことに変わりはない」「法律があるからといって要望を主張したら、仕事がなくなりそう」といった声が多く、フリーランスが弱い立場である実態がわかる。

収入が減っても「好きな仕事で生きていけることに大満足」

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったマイナビ キャリアリサーチラボ研究員の元山春香さんに話を聞いた。

――【図表1】の「会社員の時を比べたフリーランスの働き方」をみると、「自由度」「幸福度」「自己肯定感」が増え、「収入」「業務量」「ストレス」が減ったとあります。「収入」の面をのぞくと、いいことづくめですね。ズバリ聞きますが、フリーランスになって幸せになった人が多いということでしょうか。

元山春香さん 今回、正社員から独立して現在フリーランスとして働いている人に聞いています。満足しているスコアが62.1%ですから、独立によって全体としてポジティブな実感を得られた人が多い結果です。

自由回答でも「会社員として雇われる働き方に比べ、自由度が高く、自分の裁量で決めて働ける」「好きな仕事で生きていけることに大満足」「会社に出社する生活から解放された」「人間関係のストレスがないので、体調も良くなった」といったコメントがあがりました。

固定された働き方や、組織での人間関係・通勤にストレスを感じていた方々が、独立してより理想的な働き方を手に入れることができ、私生活の幸福感アップにもつながっていることがうかがえます。

――現在70代の私も、定年後にフリーランスのライターをしているので、大いに共感しますね。

元山春香さん 60代の方々の「定年後に自分の好きな仕事に従事できる」「自分が頑張ってきた証が形になっている」といったコメントも印象的でした。会社員と違って定年がもうなく、60代以降のキャリアも裁量をもって決めることができることが幸福感や自己肯定感につながるのではと考えさせられました。

取引先の数や、軌道に乗るまでの時間が収入に影響

――ただ、現役世代で正社員を辞めてフリーランスになる場合、精神面では幸福度が増しても収入面での不安が一番の悩みという結果が出ていますね。

その収入の面ですが、「ITエンジニア系」がずば抜けて収入増になる反面、私のような「編集・ライター・印刷系」がガックリ減るのはどういう理由からでしょうか。

元山春香さん 収入の増減には、働き方や前職の経験・職種の稼ぎやすさなど複数の要因が考えられます。生のコメントは聴取していないため就業実態の回答データからの推察になりますが、ITエンジニア・開発系は年間取引数が平均2.9社で他職種と比べて少なく、年間収入が高めなことから1社あたりの報酬が高いことが想定されます。

また、前職でも同じ業務を行っていた人が6割を占めるからか、独立後、早くに軌道に乗った人が多いのが特徴です。実際、1年以内に軌道にのった人が6割近くいます。また、システム開発など専門的知識が必要な職種のため、報酬が高くなりやすいことも収入アップに影響していると考えられます。

一方で、編集・ライター・印刷系の職種は年間取引数が8.5社と多めですが、年間収入はITエンジニア系より低いことから1社あたりの報酬が少ないことが推察されます。

また、フリーランスとして軌道にのることに時間がかかる人が多いようです。実際、まだ軌道に載っていない、安定していない人が25%以上いることも、平均収入を下げる一因と考えられます。

収入がガックリ減るライターの満足度が、ガッツリ増えるITエンジニア系より高い理由

――う~む。薄利多売のフリーランス・ライターの世界に身を置く私としては、大いに納得の説明ですね(笑)。

元山春香さん しかし、編集・ライター・印刷系の職種では、フリーランスで実現したかったことについて、「自分のペースでゆっくり働くこと」と回答している人が多いですよ。たくさん働いて収入を増やすよりも、時間に余裕をもって働くことを優先している面もあると思います。

――なるほど。【図表3】の「フリーランスとしての働き方の満足度」調査で、収入がガックリ減る編集・ライター・印刷系の満足度が、収入が急増するITエンジニア系よりも高い理由は、そこにあるわけですね。満足度と収入は必ずしも一致しないということですか。

元山春香さん 元正社員の方がフリーランスとして独立した動機を見ると、「自分の仕事のスタイルで働きたい」「働く時間や場所を自由にしたい」といった理由が上位にきており、「収入を増やすため」は6番目となっています。収入の向上というよりも、働く自由度や自分の理想の働き方を追求するためにフリーランスになった人が多いとわかりました。

実際に独立後に実現できていることも聞いていますが、働き方の自由度に関しては実現できている人が多く、動機と現状がマッチしていることも、満足度の高さにつながっていると考えられます。

特に編集・ライター・印刷系の職種では、「好きな仕事で働くため」の動機が4割近くで、ほかの職種と比べて高く、自由回答でも「仕事が楽しい」「収入はないが、好きな仕事のことだけ考えていられる」というコメントが印象的です。収減の不満はあるものの、やりたかった仕事を実現できることの充実感が上回っている人が多いと推察されます。

フリーランスへの道、まずは副業から始めて様子をみる方法も選択肢の1つ

――ところで、フリーランス新法ですが、3人に1人が「期待できる」とする一方、5人に1人が「期待できない」と答えています。この結果についてズバリ、どう見ていますか。

元山春香さん フリーランス新法に期待できない人の回答で「何か交渉事を行うと、取引中止にされる恐れがある」「仕事をもらう立場なので、あまりこちらから意見などを言うことはできない」といったコメントが印象的で、条件面について交渉すること自体を躊躇する環境があることがうかがえます。

トラブルの上位項目に「低い報酬で一方的に決定された」「報酬と釣り合わない作業量だった」が挙がる点からも、フリーランスに対して交渉の余地を与えない姿勢の企業が一定数あるのではないかと考えさせられてしまいます。

ただ、期待しない回答よりも期待する回答が多いという点でポジティブにとらえています。新法では違反した場合、行政指導など企業側への罰則も定められており一定の強制力が期待されます。これまで法規制がなかったフリーランスの権利が守られ、主張できる環境に一歩前進したといえるのではないでしょうか。

――これからフリーランスを目指す人や、現在フリーランスの人へのアドバイスやエールをお願いします。

元山春香さん 働き方の多様性によって、仕事と私生活どちらも相乗的に充実させる価値観が広がっていますが、フリーランスとして独立した人の価値観もこれに近いものを感じました。会社を離れ独立する不安はあると思いますが、今回の調査結果が1歩を踏み出した人にポジティブな作用があってほしいと思います。

これからフリーランスになることを検討している方は、収入が不安定になる点や、軌道に乗るまで時間がかかることを想定して、計画的に実行することを考えてください。まずは副業から始めて様子をみる方法も選択肢の1つです。

今回、職種ごとに働き方や収入、実現できたことなどが多様であることもわかりました。自分が本当に実現したいことを見極めて、情報収集や準備をし、理想の働き方を実現してほしいと思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
元山 春香(もとやま・はるか)
マイナビ キャリアリサーチラボ研究員

市場調査会社でリサーチャー業務に従事したのち、2024年に中途入社。現職では主に中途・非正規雇用に関する調査やライフ・キャリアに関する網羅的な調査などを担当。ミドル・シニアの働き方、キャリア自律に関心が高い。

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