時速194キロでも「危険運転」適用に難しさ、遺族「認められない不安ある」…大分の衝突死亡事故で5日初公判
読売新聞 / 2024年11月3日 14時30分
大分市で2021年、時速194キロで乗用車を走行して車に衝突し、男性を死亡させたとして、自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死)に問われた元少年(23)の裁判員裁判が5日、大分地裁で始まる。元少年は同法違反(過失運転致死)で在宅起訴されたが、遺族らがより法定刑の重い危険運転致死の適用を求める署名を集めるなどした後に訴因変更された。焦点は適用のハードルが高い「危険運転」と認められるかどうか。公判の行方が注目される。(山口覚智、水木智)
事故で命を落とした会社員小柳憲さん(当時50歳)の姉、
事故は21年2月9日深夜に起きた。起訴状などによると、当時19歳だった元少年の乗用車が、法定速度の時速60キロを130キロ以上超える194キロで県道交差点に進入し、右折する小柳さんの車と衝突した。小柳さんは車外に投げ出され、事故の翌日、亡くなった。
22年7月、大分地検は過失運転致死で在宅起訴した。長さんは地検から「衝突までまっすぐ走れており、直線道路での走行を制御できていたことになる」との説明を受けた。
危険運転は、〈1〉「制御困難な高速度」で走行したり、〈2〉「妨害する目的で接近」したりして事故を起こした場合などが適用要件となっている。このうち〈1〉は直線道路では、猛スピードでも運転操作ができたとして、危険運転が認められないケースが目立つ。事故現場は直線道路だった。
「常識外れのスピードなのに、過失なわけがない」。長さんらは危険運転致死への訴因変更を求め、署名活動を始め、約2万8000筆を22年10月に地検に提出した。地検は補充捜査を行い、同12月、〈1〉と〈2〉の要件を併せた危険運転致死への訴因変更を大分地裁に請求し、その後認められた。地検は過失運転致死も予備的な訴因に加えている。
事故から3年半以上を経て始まる公判。地裁によると、元少年側は〈1〉、〈2〉とも争う方針。長さんは「危険運転致死と信じてきたが、裁判所に認められないのではとの不安はある」と吐露する。それでも、元少年には「自分がしたことにしっかり向き合ってほしい」と望み、弟に報告するためにも、公判の行方をこの目でしっかり見届けるつもりだ。
危険運転の適用要件「制御困難な高速度」「妨害目的での接近」
公判では、危険運転致死の成否を巡り、元少年の運転に関して、適用要件の〈1〉「制御が困難な高速度」、〈2〉「妨害する目的で通行中の車に接近」のいずれかにあたるかが争われる見通しだ。
〈1〉については、具体的に条文で速度が定められておらず、猛スピードで走っても、車線や道路をはみ出したり、スリップしたりすることなくコントロールできていれば、危険運転と認められない傾向がある。
津市で2018年に時速146キロの車が道路脇から出てきたタクシーと衝突して5人が死傷した事故では、名古屋高裁は21年の判決で、直前に車線変更の操作ができていたことから〈1〉の要件を満たさないとして、「危険運転」の成立は認めなかった。
〈2〉は、これまで対向車線にはみ出して対向車両に接近したり、あおり運転をしたりして死亡させた場合に適用されてきたものだ。パトカーに追跡された車が、対向車線側にはみ出して対向のバイクに接近し、転倒したバイクの運転手がはねられ死亡した事故では、東京高裁は13年、「妨害目的にあたる」として危険運転致死を認めた1審判決を支持している。
名古屋大学の古川伸彦教授(刑法)は〈1〉について、「検察側は走行時の車の状況などから元少年が車のコントロールを失ったと示せるかがポイントになる。また、仮に失っていなくても時速194キロの走行で制御を失ったと認めるべきだと主張し、裁判所を納得させられる立証ができるかも注目される」と指摘。〈2〉については「接近をやめることが可能な距離で、前方の車が確実に右折してくると気づいたのに接近したといえるかが鍵を握る」としている。
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