「貨物新幹線」JR東が意欲、専用車両の導入も視野…航空便に匹敵する高速性と分単位の定時制が強み
読売新聞 / 2024年11月5日 18時7分
JR東日本が開発を検討している荷物輸送専用の新幹線が注目されている。高速輸送で新たな収益源となる可能性がある一方、設備や運用面での課題が多く、これまで実現してこなかった。ハードルは依然として高いものの、物流業界の人手不足の深刻化もあり、「貨物新幹線」への期待が高まっている。(鈴木瑠偉)
「魅力的」
「物流の一機能を担えるのであれば、専用の新幹線を作ることも視野に入っている」。JR東の喜勢陽一社長は記者会見で、専用車両を使った高速輸送の事業化に意欲を示した。専用車両を先頭に導入したり、1編成全てを荷物専用にすることなどを検討している。
JR各社は現在、新幹線の空いたスペースで荷物を運んでいるが、少量にとどまっている。荷物専用車両を導入すれば輸送量が拡大し、積み下ろしの効率も上がる。航空便に匹敵する高速性と分単位の定時制が強みで、JR東は将来的に100億円の取扱高を目指すとしている。
JR東と北海道・東北新幹線でつながるJR北海道の綿貫泰之社長は、「魅力的な話」と歓迎する。北海道の農水産品を首都圏に高速輸送できれば、メリットは大きいとみる。
温度差
貨物新幹線への対応では、各社に温度差がある。
JR東海の東海道新幹線は過密なダイヤが組まれ、専用車を投入する余地は乏しい。全列車の最高速度を285キロ・メートルに統一して高頻度に運行しており、重い荷物を搭載して速度が遅くなる可能性がある貨物新幹線を投入すれば、ダイヤ全体に影響する恐れもある。
また、効率的な荷降ろしには、車両開発だけでなく、駅など設備面の改良も不可欠で、「旅客より需要が確実なものはない」との声が漏れる。
危機感を隠さないのは、JR貨物だ。国鉄民営化で誕生した“兄弟分”だが、現在の売上高はJR東の10分の1に満たない。荷物の奪い合いとなりかねない状況に、犬飼新社長は「物流の需要が新幹線に移る危惧がある」と話す。
人手不足に対応
課題が残る中、貨物新幹線が注目されるのは、物流業界の厳しい状況が背景にある。
トラック運転手の労働時間規制強化で輸送力が減る「物流2024年問題」で人手不足が深刻化しており、政府は今後10年程度で鉄道の輸送量を2倍に増やす方針だ。ただ、JR貨物の車両には空きスペースは3割ほどにとどまる。国土交通省の検討会は貨物新幹線の検討を提言しており、「新幹線が高頻度で荷物を運べば、物流は一変する」(国交省幹部)と期待する。
野村総合研究所は、新幹線を使った荷物輸送について、日本全体で1日約900トンの潜在的な需要があると推計し、事業として成立するとの見方を示している。小林一幸グループマネジャーは「専用車両の開発コストに見合うほど、新幹線の特性が生かせる荷物を獲得できるかがカギだ」と指摘している。
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