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元寇の沈没船調査で培った「松浦方式」、未開の水中遺跡保護にノウハウ…海洋開発でニーズ高まる

読売新聞 / 2024年11月5日 10時3分

 鎌倉時代の蒙古襲来「元寇げんこう」の古戦場「鷹島海底遺跡」での長崎県松浦市の発掘調査手法が、全国的なモデルとして注目を集めている。海中を掘り起こす水中考古学には高い技術が求められるため、長年培った「松浦方式」とも言える独自のノウハウの普及と人材育成が期待されている。(北村真)

 同遺跡で3隻目の元寇船が確認された10月1~10日の試掘調査では、全国各地から集まった自治体職員たちが、潜水服姿で海中に入った。熊本県天草市文化課の宮崎俊輔学芸員は、海底の土砂を吸い上げて発掘する様子を見学。「潜ってみると水中は想像以上に濁っていて視界が悪く、潮の流れによって掘る方向を変えるといった対策の大切さがわかった」と語った。

 文化庁からの委託で奈良文化財研究所(奈良市)が行っている水中遺跡の調査方法を検証するパイロット事業の一環として、松浦市が実施した研修だ。北海道江差町や東京都など9自治体から12人が参加。船上と海底をカメラや電話でつないだほか、参加者の一部は水中に潜り、同市職員の案内で船体の一部や遺物を掘り出す作業などを間近で学んだ。

 鷹島海底遺跡では1980年以降、継続的に発掘調査が行われてきた。海中では潮流や視界の悪さなどで危険を伴う。このため、松浦市は潜水作業を請け負う企業と協力し、海面に浮かべたブイと海底をロープでつなぎ、水上と発掘現場を安全に行き来する仕組みを開発。また、発掘時に巻き上がった泥などによる濁りを、水中スクーターによる弱い水流で取り除く独自の方法などを編み出してきた。

 こうしたノウハウの積み重ねから、水中遺跡調査のモデルケースとして事業の対象に選ばれた。実地で発掘を学ぶことが多い陸上遺跡と違い、事例が少ない水中遺跡の調査現場を研修で間近に見られる機会はこれまでほとんどなかった。

 同研究所水中遺跡プロジェクトチーム室の国武貞克主任研究員は「調査技術の習得には、目の前で考古学的成果が上がる瞬間を見ることが何よりも重要。今後、全国的な水中遺跡の調査研修を行う上でモデルとなる成功事例だ」と話す。

 沈没船に代表される水中遺跡は、海底に埋もれて無酸素になると有機物が分解されず良好な保存状態で見つかる場合があり、交易などの仕組みを伝えるタイムカプセルにも例えられる。

 海外では文化財保護の観点から、国主導で水中遺跡の調査と保存に取り組む例が多い。しかし、国内では費用や技術の問題から調査体制の整備が進んでいない。文化庁によると、把握されている国内の約46万8000か所の遺跡のうち、水中遺跡はわずか387か所。滋賀と長崎、沖縄県に集中しており、全体の8割の自治体は水中遺跡の有無も把握していないのが実情だ。

 今後は、洋上風力発電などの海洋開発が進むと予想されるため、調査による遺跡の把握と保護が課題となっている。

 同遺跡の調査指導に当たっている国学院大の池田栄史教授(考古学)は「水中遺跡の調査が進まない現状を打破するのは人材育成。研修を重ね、他の自治体にも潜水や発掘の技術が普及することが重要だ」と語った。

◆鷹島海底遺跡=伊万里湾に浮かぶ鷹島沖にあり、モンゴル帝国(元)による2度目の来襲・弘安の役(1281年)で約4400隻の元寇船が沈んだとされる。これまでに船体や木製いかりなどが発見され、2012年に遺跡の一部が水中遺跡では初めて国史跡に指定された。

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