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バリトンの宮本益光がデビュー30年…「気後れ」克服し、日本語の歌唱を究める

読売新聞 / 2024年11月8日 17時0分

「音楽家として『まだ足りない』という思いがチャレンジ精神につながる」と語る=佐藤俊和撮影

 オペラから作詞・訳詞・作曲、合唱指導までこなす多才のバリトン歌手、宮本益光(52)がデビュー30周年を迎えた。幅広い活動のベースには、常に西洋音楽に取り組むことへの自己懐疑と、それを乗り越えるために精進を重ねてきた「日本語使い」としての自負がある。(松本良一)

 9月28日に東京・銀座の王子ホールで開かれた記念リサイタルは、前半が自ら日本語訳した字幕を付けたシューマンの歌曲集「詩人の恋」、後半が作詞や作曲を手がけた日本語歌曲というプログラム。「相棒」として信頼する作曲家・ピアニストの加藤昌則(51)とタッグを組み、ドラマチックかつデリケートな歌唱で時代や国、言語を超えた音楽の神髄を聴かせた。

 「東京芸術大在学中にヘンデルの『メサイア』を歌ったのが出発点です。その頃からドイツ歌曲やイタリア・オペラを日本人が歌うことに気後れするところがあった」。それでも同大大学院でシューベルトなどドイツ歌曲の研究に取り組んだのは、日本人がポップスを含めた西洋起源の音楽にどう向き合うかという問題意識に駆られてのことだった。

 外国語で歌うことを深く掘り下げるためには、普段使っている日本語を外部から客観的に観察したうえで西洋音楽との接点を探らなくてはいけない。そこから日本語による表現の可能性に気付いたという。オペラの字幕などの訳詞を多く手がけるのも、同じ理由だ。

 「ヨハン・シュトラウスやベルディのオペラの根底には、それぞれドイツ的、イタリア的な民俗色がある。それらの表現を追究することと、日本語の歌唱を究めることは通じている」

 音楽に臨む姿勢は常に真剣で厳しい。児童合唱を指導する時もメンバーが一人でも欠けることを嫌う。「オペラの稽古でも『もっと勉強して来い!』と若手に言いたくなることはたびたびある」。言葉を究めることが歌手の使命であるという信念は揺るぎない。

 オペラの演出、オリジナルの台本執筆なども、今や仕事の一部になった。夢はモーツァルトのオペラ全22作をピアノ伴奏で録音すること。すでに7作を録音したが、舞台に立つ喜びも捨てがたいと言う。「歌い終わって客席にお辞儀をして拍手を受ける時、『やっぱり自分の居場所はここだ』と思います」

 「職業・宮本益光」を自称する音楽家は、10年、20年後、どのような進化を見せてくれるだろうか。

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