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ホラーの原点は古里の森への畏怖、「永遠の子ども」森へと帰る…楳図かずおさん逝く

読売新聞 / 2024年11月5日 20時43分

恐怖漫画の巨匠でありつつ、明るいキャラクターで愛された楳図かずおさん(2002年撮影)

 「おろち」「漂流教室」など恐怖漫画の第一人者で、ギャグ漫画でも「まことちゃん」を大ヒットさせた漫画家の楳図かずお(うめず・かずお、本名・一雄)さんが10月28日午後3時40分、胃がんで死去した。88歳だった。葬儀は関係者で済ませた。後日、お別れの会を開く予定。

 「僕は量子コンピューターに負けない物語を作る!」

 記者が病床を訪れる度に、楳図かずおさんは、ベッドから体を起こせない状態だったが、新作の構想を熱っぽく語り、1時間以上も話が止まらなかった。1枚でも絵を描いてくださいと記者が言うと、ニッコリして「そうだね、描かなきゃね」と返した。それはかなわなかった。

 まだ元気だった頃、楳図さんに生い立ちをじっくり聞く機会があった。「僕は山の中っ子なんです」。幼少期を奈良県の山村で過ごした。母の実家は有数の過疎地である同県野迫川のせがわ村。その風景が「へび女」の故郷のモデルになった。楳図さんは森を描くのがうまい。しかも、黒々と不気味な森ばかりだ。楳図さんの「恐怖」の原点は、子どもの頃、父母と一緒に歩いた森の夜道だったのだろう。「村で小学校の教員をしていた父が、夜の森で出会って一番怖いのは、人間だって言うんです。よく覚えてる」

 楳図さんの独創性は、家の中にも、都会にも、人の心にも、暗い森が広がっていることを描き出したことだ。森は、野蛮で豊穣ほうじょうな生命力の象徴でもあろう。あまりに怖い作風は大人から批判も浴びたが、それでも子どもたちが夢中になったのは楳図ホラーの根源が、紀伊半島のまん中、日本の文化の最古層にある森への畏怖と、どこかでつながっているからではないか。怖い森は、奇妙なことに、懐かしい場所でもあるのだ。

 「わたしは真悟」においては、コンピューターやロボットの内部にさえ、蛇のように絡み合うコードの森があることを示した。楳図かずおの本質は「森から来た漫画家」なのだと思う。

 10月半ばから急に体力が落ち、面会できなくなった。同月28日午後、看護師に買ってきてもらったドリンク剤を少し口に含み、「おいしい」と言って、眠るように息を引き取ったという。

 「へび女」のイメージの原型は母、「まことちゃん」の前身となったギャグ漫画「アゲイン」で若返り薬を飲む沢田元太郎が、父のイメージだと語っていた。本人は、まことのような「永遠の子ども」として、再び森へと帰っていった。(文化部 石田汗太)

漫画家・ちばてつやさんの話「デビューが同じ時期、しかも同じように少女マンガで雑誌に描き始めた、まさに同期、戦友のような存在でした。つい最近、楳図さんのとても素晴らしい精力的な展示会を観に行ったばかりなので、まだまだ現役、と感服していただけに本当に驚いています。心よりご冥福(めいふく)をお祈りいたします」

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