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裁判官インサイダー、出向後は担当のTOB関連企業が中心に…株取引の規定なく「不正は想定外」

読売新聞 / 2024年11月6日 5時0分

 金融庁に出向中の裁判官によるインサイダー取引疑惑で、裁判官が出向前後で取引銘柄を一変させていたことがわかった。出向前は有名企業が中心だったが、出向後は、同庁が未公表情報を基に審査している企業に狙いを絞っていたという。同庁や東京証券取引所といった「市場の監視役」にも不正取引疑惑が発覚する前代未聞の事態に、市場関係者らからは早期の原因究明や再発防止を求める声が出ている。(落合宏美)

 裁判官は30歳代男性で、今年4月に最高裁事務総局から同庁へ出向し、株式公開買い付け(TOB)を予定する企業の書類審査などを担当する企画市場局企業開示課に配属された。

 関係者によると、裁判官は出向前までは有名企業の株を中心に日常的に取引を行っていたが、出向後は、同課が扱うTOB関連の企業に取引対象を変更。自身が担当する企業だけでなく、部署内で共有されるTOB予定企業の一覧を基に、未公表情報を得て不正を繰り返していた疑いもある。

 裁判官は出向直後から徐々に取引額を増やし、4月に10万円程度だった利益は、8月に100万円超に増え、総額では数百万円規模に上ったとされる。裁判官は証券取引等監視委員会が8月に調査に着手する直前まで未公表情報に基づく取引を続けていたとみられる。監視委は9月に裁判官の関係先を強制調査しており、東京地検特捜部への刑事告発を視野に調べを進めている。

 最高裁などによると、裁判官の株取引を禁じる明文規定はなく、近年は株取引を行う若手も珍しくないという。

 裁判には、上場企業に絡む特許侵害訴訟や合併・買収(M&A)を巡る争いなど司法判断が株価に影響を与えるケースがある。裁判官自身が判断を示す前にこれらの企業の株を取引し、利益を得ることも可能ではある。ただ、「裁判官が不正を疑われるような株取引を行う事態は全くの想定外」(最高裁関係者)で、株取引を制限するルールも議論されてこなかったという。あるベテラン裁判官は今回の疑惑を「驚きを通り越してあきれるしかない。事実だとすれば過去に例のない不祥事だ」と話す。

 早稲田大の石田京子教授(法曹倫理)は「外部から見て疑わしい取引は許されないとの意識を高めるためにも、裁判所は株取引の内部ルール策定を検討すべきだ」と指摘する。

 裁判官が不正を行った場合は通常、懲戒では上級裁判所の「分限裁判」、辞めさせるには国会の「弾劾だんがい裁判」にかける必要がある。ただし出向中は裁判官の身分を離れるため、男性裁判官の不正が認定されても、こうした裁判の対象にはならず、出向先の金融庁で懲戒などの処分を受ける可能性が高い。

金融業界で相次ぐ不祥事、投資への信頼喪失に危機感

 金融業界では昨年末から今年にかけて不祥事が続き、政府が後押しする「貯蓄から投資へ」に水を差しかねない事態となっている。

 三菱UFJフィナンシャル・グループでは、傘下の三菱UFJ銀行と証券2社が顧客企業の非公開情報を無断共有したなどとして業務改善命令を受け、行員がインサイダー取引を行っていた疑いも浮上。証券最大手の野村証券ではトレーダーの相場操縦、インターネット証券最大手のSBI証券では作為的な相場形成がそれぞれ発覚し、金融庁から行政処分を受けた。

 10月には同庁出向中の裁判官と東証上場部開示業務室に所属する社員のインサイダー取引疑惑が相次いで判明し、加藤金融相は記者団に「再発防止策を徹底する必要がある」と危機感をあらわにした。さらに今月1日、三井住友信託銀行が管理職だった元社員によるインサイダー取引の疑いを公表し、大山一也社長が記者会見で謝罪に追われた。

 政府は今年1月から少額投資の運用益を非課税にする「NISA」の制度を拡充し、個人に投資を促す政策を進めているが、市場関係者の一人は「市場の公正さへの信頼が揺らぎ、投資を始めた人の不安を招きかねない」と懸念する。

 金融庁や東証、銀行や証券各社は不正が疑われる取引を禁止する内規を設けているが、機能しなかった可能性が高い。金融市場や組織統治に詳しい花崎正晴・埼玉学園大教授は、「個人の資質の問題だと矮小わいしょう化せず、各組織でルール違反の有無を調べて結果を公表し、罰則の強化や職員・社員教育の徹底といった対策を講じるべきだ」と話している。

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