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せりふなしでも感涙のアニメ「ロボット・ドリームズ」、大切な誰かを思い出す…舞台は80年代NY

読売新聞 / 2024年11月8日 18時0分

「ロボット・ドリームズ」から。ドッグ(左)とロボット(右)=(c) 2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

 観客を泣かせる映画が必ずしもいい映画ではないのだが、「ロボット・ドリームズ」(パブロ・ベルヘル監督・脚本、11月8日公開)は、いとおしくて、切なくて、しかも映画として見ごたえたっぷりのアニメーションだ。1980年代のニューヨーク(住民はみな人間以外の動物として登場)を舞台にした友情物語。自分にとって大切な誰かのことを思い出す人も、きっと少なくないはずだ。(編集委員 恩田泰子)

 「アニメ界のアカデミー賞」といわれるアニー賞の長編インディペンデント映画賞など数々の賞に輝き、アカデミー賞そのものの長編アニメーション映画部門でもノミネートされた珠玉の一本。

 原作は、2007年に刊行されたアメリカのサラ・バロンによる同名グラフィックノベル。監督のベルヘルはスペインのビルバオ生まれでマドリード在住、「ブランカニエベス」など実写作品で評価を集めてきた人だ。数年前に原作を読み直して改めて感動し、アニメーション映画にしたいと考えたのだという。

 原作の舞台はアメリカのどこかだが、映画の舞台はニューヨーク。ニューヨーク大学映画学科修士課程で学んだベルヘル自身の街の記憶が投影されているらしい。

 イーストビレッジのアパートにひとり、孤独を感じながら暮らすドッグ=犬が、テレビの通販CMを見て、「友達ロボット」を注文した日から物語は始まる。配達をたのしみに待ち、到着したキットをせっせと組み立て、作動させると……なんだか、いい感じ。

 ロボットには周囲の人々、もとい動物のやることをまねる、一種の学習機能があるらしい。一緒に街に出てみると、そのまねのせいでどきどきさせられることもあるのだが、わくわくのほうが断然多い。もともと備わっているセンスが合うようで、街にあふれる音楽も分かち合える。

 セントラルパークに繰り出して、アース・ウインド&ファイアーの名曲「セプテンバー」に乗って、ふたりでローラーダンス。うれしい、楽しい、もう、大好きだ。

 あちこち巡って、写真ブースで2ショットを撮って、家のテレビで映画「オズの魔法使(まほうつかい)」を見て……。大切な人が隣にいる。ドッグとロボットはその幸福を味わうが、突然、離ればなれになる。

 原作同様、キャラクターの造形はシンプル、せりふもない。でも、ドッグが直面する現実のほろ苦さ、ロボットが繰り返し見る再会の夢の切なさに、何度も何度も胸を突かれる。それは、豊かにして巧みな映像表現が物語の魅力を増幅し、そのすべてを音楽の力をもってしかとつなぎあわせているからだろう。

 ふと、つないだ手の感触、互いに向けるまなざし、ともにリズムに乗って体を動かす楽しさ……。いきいきとした動き、描写が観客自身の個人的な記憶を呼び覚ます。

 往事のニューヨークの住人や日常風景の凝りに凝った描写が(たとえ観客がそれを知らなくても)、そのリアリティーを裏打ちする。

 一連のシーンをさまざまな視座から照らし出す映像が、キャラクターが置かれた状況や心情を、せりふなしでも雄弁に語る。時折、使われる2分割画面も、ドッグの心情を効果的に見せる。

 時を経るごとにスケールアップしていくロボットの夢の世界は、映画を盛り上げる一方で、再会の夢がどんどん非現実的になりつつあることを物語る。黄色いレンガ道経由でバスビー・バークレー振り付けの往年のミュージカルのような世界が広がり始めた時、夢が本当に夢になってしまったのかと、また胸を突かれる。もう、泣きそうになる。

 現実の残酷さも描く映画だが、単なる悲劇では終わらない。かといって、凡庸なハッピーエンドも訪れない。ただ、どんな現在を生きていようと、かつてともに生きた大切な人との幸福な記憶は残っている。つながりは消えない。分割画面を最高に生かした最終盤をぜひ、ぜひ、ぜひ、味わってほしい。またまた胸を突かれると思うけれど。

 往時のニューヨークでの生活、風俗の描写は本当に念が入っていて、そうした作り方が確かな実感を醸すのだとも思う。通りの様子、道行く者たちの装い(よく見ればバスキアらしきライオンがいるシーンも)、グラフィティアート、実在の店や日用品、書籍、食品、巨大ラジカセ……。最後のエンドクレジットに列挙されるコピーライト、トレードマークの表示はなかなかに壮観だ。ドッグの部屋にピエール・エテックスの映画「ヨーヨー」のポスターがあったり、最初のお出かけに持っていくバッグにスペインで行われた82年サッカーW杯のキャラクターが描かれていたりするのは、ベルヘル監督らしさか。

 最初から最後まで、折に触れて映し出されるのは、世界貿易センターのツインタワー。2001年のアメリカ同時テロで破壊され、今はもうないけれど、それはかつて、確かに隣り合ってそこにあった。大切な記憶をめぐる本作で、「セプテンバー」が流れる世界に、移ろい続ける世界に、印象深く屹立(きつりつ)しているのである。

◇「ロボット・ドリームズ」(原題:ROBOT DREAMS)=2023年/スペイン・フランス/上映時間:102分/字幕翻訳:長岡理世/配給:クロックワークス=11月8日から東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

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