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同人誌はコミケだけじゃない、「オンリー」が作る「濃い空気」とは…「同人誌の母」が愛した「若者の情熱」

読売新聞 / 2024年11月10日 17時0分

6月30日に東京ビッグサイトで開かれた「JUNE BRIDE FES 2024」会場。女性向けイベントでは最大規模=ケイ・コーポレーション提供

 同人誌即売会は「コミックマーケット」だけではない。規模の大小はあれど、ほぼ毎週末、どこかで何かのイベントが開かれている状況だ。中にはコミケに迫る勢いの即売会もある。(文化部 石田汗太)

名物「赤ブー投票箱」が開くもの

 コミケは何でもありの「オールジャンルイベント」と呼ばれるが、もう一つ「オンリーイベント」と呼ばれる形態がある。特定のジャンルやテーマ、作品などに絞って開かれる即売会で、規模は小さいが、より空気の濃い場となる。

 オンリーの隆盛は1980年代半ばから。前回でも紹介した「キャプテン翼」の二次創作ブームが起爆剤となり、多種多彩なオンリーへの道を開いた。

 このオンリーを多数合体させ、一堂に集めた巨大イベント「コミックシティ」を運営する会社が「赤ブーブー通信社(以下、赤ブー)」だ。企業系即売会の雄と言われる。

 7月末、赤ブー主催の「TOKYO FES Jul.2024」(東京ビッグサイト)を歩いた。実は赤ブーのイベントを見るのは初めて。理由は簡単、参加者の99%が女性だからだ。そこで売られる同人誌の多くは二次創作のBL(ボーイズラブ)漫画や小説など。同じ原作の二次創作でも、扱うカップリングによってまったく違うオンリーになる。

 コミケは扱うジャンルでエリアが分かれているが、赤ブーはオンリーごとの配置なので、初心者には何が何だかわからない。しばらく会場を歩き回って、知っているジャズ漫画のソフトな二次創作BLを見つけて買った。「お好きなんですか?」と作者らしき女性は目を丸くしていた。愛のあるよい漫画だった。

 再度訪れた8月末の「COMIC CITY VEGA 2024」(同)では、会場の真ん中に赤い鳥居が設置され、その下に名物の「赤ブー投票箱」があった。同人誌を赤ブーが提携している印刷所で作ると、その印刷所から投票引換券をもらえる。引換券をイベント会場で投票券に交換し、自分の好きな作品や「推しカプ」を記入して投票する。それが50票に達すれば赤ブーがオンリーを開くシステムだ。2019年からスタートし、業界の注目を集めている。

「同人誌の母」

 「今は世界で自分一人しか推していないカップリングでも、頑張って同人誌を出し続ければ、いつか必ずイベントが実現する。『好き』であることが最強のシステムなんです」。赤ブーの母体、ケイ・コーポレーション社長の赤桐(あかぎり)(げん)さん(49)は話す。「地道に同人誌を作っている子たちが、どうしたら主役になれるのかといつも考えています。それは、『我々主催者は苔(こけ)になれ』と言い続けた母の教えもあるかもしれません」

 赤桐さんの母、赤桐(田中)圭子さんは、同人誌印刷所の草分け「ナール」に勤めたことがきっかけで、1988年にケイ社を設立して即売会運営に乗り出す。「コミックシティ」を業界有数のイベントに育て上げ、温かい人柄で「同人誌の母」と呼ばれた。2020年に77歳で死去。長男の弦さんが後を継いだ。

 「母は漫画には詳しくなかったけれど、同人誌を出す若者の情熱が大好きだった」と弦さん。「僕は子どもの頃は、母の仕事はたいして理解していなかったのですが、美大に進み、画家を志した時、既成画壇より同人誌の方が『理想郷』だと感じました。何の権威もない表現者たちの作品を、みんなで買い支えるのが即売会。こんな自由な場所が日本にあったんだって」

 コミケについては「ライバルではなく学ぶ相手。運営を回すボランティアの情熱のすごさは、企業の僕らも見習わなくてはならない」。

 弦さんが重視するのは、ネット全盛の時代に、リアルな即売会を開き続ける意味だ。

 「電子書籍は売れるものは何十万部でも売れる代わり、売れないものはゼロかもしれない。しかし即売会では、誰でも机半分のスペースと売る時間は平等。売れるものと売れないものの差が必然的に縮まる。売れる本をよりたくさん売るためのシステムじゃないんです。有名無名問わず、多様なサークルが相互影響し合い、創作活動が過度に商業主義に偏らないこの仕掛けこそが同人誌即売会の良さで、存在意義だと思っています」

オンリー「旬じゃないジャンルにもチャンス」

 新たなオンリーの創設は、新規サークルの参入を促す。6月末に東京ビッグサイトで開かれた「JUNE BRIDE FES 2024」は、そんな新オンリーを中心に2万3000サークル、7万2000人の参加者を集めた。1日あたりのサークル数は、何とコミケの倍だ。

 「私の周囲にコミケに出ている人はいない。赤ブーのオンリーがほとんど」と、同イベントに参加した同人作家のカエさん(30)は話す。

 「赤ブーの投票は参加者の熱を反映できるいいシステム。私の推しカプのオンリーも実現したことがありますが、SNSで投票協力を呼びかけたり、実現したら一緒に喜んだり、連帯できるところが楽しい。旬じゃないジャンルにもチャンスがあるところが素晴らしいです」

 他にも、オリジナル作品限定の「コミティア」や、広い意味での文学を扱う「文学フリマ」など、注目すべき即売会は多い。同人誌の世界は、もはやコミケだけ見ていては語れない。

カップリングとは…

 二次創作BLにおいて、恋愛関係となる男性キャラクターの組み合わせを指す。同じペアでも関係性が異なれば別のカップリング(別ジャンル)と見なされる。「カプ」と略されることも。

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