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ウクライナに希望の白星を…日本に避難して十両に昇格した安青錦「祖国へ強い姿を」

読売新聞 / 2024年11月9日 15時48分

朝稽古に励む安青錦関(左)(10月30日、福岡県久留米市で)

 10日に初日を迎える大相撲九州場所(福岡国際センター)にウクライナ出身の安青錦あおにしき関(20)(本名ヤブグシシン・ダニーロ)が新十両として臨む。ロシアによる侵略で日本に避難したが、関西の相撲仲間に支えられて稽古を積み、初土俵から1年で関取に昇進した。「今があるのは日本の『家族』のおかげ。ドイツにいる両親に土俵入りする姿を見てほしい」と話している。(福永正樹)

7歳で相撲

 ウクライナ中部ビンニツァで生まれ、7歳の時に地元のスポーツクラブで相撲を始めた。ユーチューブなどで大相撲の動画を見て「日本で力士になりたい」と思い、稽古に励んだ。2019年、堺市で開かれた18歳以下の世界ジュニア選手権100キロ級に15歳で出場し、3位に入った。

 この時に出会ったのが当時関西大の相撲部員だった山中新大あらたさん(25)。力強さに感銘を受けた山中さんから声をかけられ、連絡先を交換した。山中さんとは帰国した後もSNSで「大相撲の力士になりたい」「番付はどうやって決まるの」などと英語でやり取りを重ねた。

 大学生だった22年2月、ロシアのウクライナ侵略が始まり、仕事でドイツ・デュッセルドルフに住んでいた母のもとに身を寄せた。戦禍から逃れたが、相撲のことが頭を離れなかった。「このままでは後悔する」と、山中さんに「日本に避難できますか」と連絡を取った。関大相撲部の主将だった山中さんは「大丈夫」と受け入れを快諾し、ビザの申請方法を調べて教えてくれた。

関西大相撲部で稽古

 同年4月に来日し、約8000キロ離れた異国での生活が始まった。神戸市内にある山中さんの実家で寝食を共にしながら、週に5回、大阪府吹田市の道場で関大相撲部の稽古に練習生として参加。日本語教室にも通った。山中さんは「言葉も分からない中で泣き言を口にしない姿に覚悟を感じた」と振り返る。

 山中さんの母校・報徳学園高(兵庫県西宮市)相撲部でも汗を流した。同部元監督の知人である安治川親方(元関脇・安美錦)の目に留まり、同年12月、安治川部屋(東京都江東区)に入門した。その後も山中さんとの親交は続いた。

 23年9月の秋場所で初土俵を踏むと、低い姿勢からの攻めを武器に同年九州場所に序ノ口、24年初場所に序二段で優勝。その後の4場所は続けて6勝1敗の好成績を残し、十両に駆け上がった。ウクライナ出身の関取は新入幕の獅司関(27)に続いて2人目だ。

戦争終結願う

 両親はドイツに避難したまま。兄が残る故郷ではミサイル攻撃で住民ら20人以上が命を落とし、友人もけがをした。戦禍のニュースを見ると不安で寝付けないこともある。「一日でも早く戦争が終わってほしい」と願いつつ、「好きな相撲を取れる自分は幸せだ」とも感じる。その思いが稽古に励む力になっている。

 身長は1メートル80。体重は来日時から30キロ以上増え、135キロに。日本語も滑らかに話せるようになった。安治川親方は「強くなろうと、素直に色んなことを吸収しようとしている」と話す。

 今月5日、関大相撲部の仲間から十両昇進祝いで大学のロゴが入った化粧まわしを受け取り、山中さんから「けがに気をつけて自分の相撲を取ってほしい」とエールを受けた。「一番一番集中し、優勝を目指して頑張る。ウクライナの人たちに強い姿を見せたい」と誓っている。

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