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北の湖を倒した「がぶり寄り」、けがから再起し大関昇進への原動力に…元大関琴風の「演歌と土俵」

読売新聞 / 2024年11月12日 9時19分

北の湖(左)を一気に寄り倒す琴風(1977年11月の九州場所で)

 元大関琴風の中山浩一さん(67)(元尾車親方、津市出身)は現役時代、「がぶり寄り」が代名詞だった。腰の上下動で相手の体をあおり、一気に寄り切る速攻相撲――。この取り口の習得こそが、膝の靱帯じんたい断裂という大けがをきっかけに気づかされた「生き残っていく道」であり、再起と大関昇進への原動力だった。(三木修司)

初金星は「たまたまの産物」

 1977年11月の九州場所4日目、東前頭筆頭の琴風が北の湖を土俵下に寄り倒した。左四つから右の上手まわしを浅く引き、がぶって寄る速攻。平幕が横綱を倒す琴風の金星第1号でもあり、これ以上ないという勝ちっぷりで北の湖の19連勝を阻んだ。

 中山さんは「夢中で前に出た相撲。無意識にがぶっていた」と懐かしがる。5日目以降もがぶり寄りがさえて初の10勝を挙げ、初の三賞となる殊勲賞に輝いた。新入幕から6場所の琴風にとっては、「初物ずくめ」の好成績だった。

 しかし、この場所でがぶり寄りが完成したのかというと、中山さんは「たまたまの産物だった。ちょっとだけ、ホントにちょっと開眼しただけだ」と否定する。翌場所以降はがぶっても勝ったり負けたり……。琴風の気持ちの中に「こだわりはなかった」と振り返る。

身も心もボロボロ…家族の顔を思い浮かべ、泣き言のみ込む

 がぶり寄りを究める覚悟を持ったのは、膝に大けがを負った後のことだ。

 北の湖戦から1年後の78年九州場所で左膝の靱帯を痛め、4場所連続で休場に追い込まれた。関脇、小結の三役に定着していた番付から転がり落ち、相撲部屋で稽古を再開した79年5月の夏場所(休場)は、幕下5枚目に下がった。「身も心もボロボロ。左膝は相当に悪い。もう上には戻れないだろう」という後ろ向きな思いと、「ここで踏ん張らなければ」という前向きな思考が入り交じった。

 ♪男はさすらいの 旅路が好きだよ 一人になれば また故郷恋しい (琴風オリジナルベスト20「さすらいの旅路」より)

 両親や姉の顔を思い浮かべては、泣き言をのみ込んだ。「真剣にがぶり寄りを体に覚え込ませる」と稽古に励む。あの北の湖戦で得た「かすかなコツ」が頼りだった。師匠の佐渡ヶ嶽親方(元横綱琴桜)の「前に出ろ、後ろに引くな、逃げるな。がぶれ、がぶれ」という叱咤しった激励も、迷いをかき消す力になった。

自分には「休む我慢」が欠けていた

 本場所に再起した79年7月の名古屋場所は幕下30枚目だった。ほぼ半年ぶりの土俵でファンが叫んだ「もう一度頑張れ!」という声援に胸が熱くなった。力士にとって何よりの良薬は白星。初戦に勝つと体中に力が湧いてくるのが分かった。この場所は6勝1敗とし、9月の秋場所は7戦全勝で幕下優勝。十両に復帰した11月の九州場所も14勝1敗で優勝した。一歩ずつ、復活の手応えを感じながら、80年1月の初場所でついに再入幕を果たした。

 14歳で入門後、18歳で新十両、19歳で新入幕、20歳で新三役とがむしゃらに走ってきた。無理に無理を重ね、たまりにたまった負担が膝の中ではじけた。けがを克服する過程で、無理することと我慢することの違いを学んだ。自分には「休む我慢」が欠けていたと知る。この時22歳。琴風は1年半の経験を「輝かしい青春から大人へ脱皮する大きな試練」と書き残した。

 力士として初めての入院生活が始まった時、稽古場にたびたび訪れる年配の男性が電話をくれた。人生観を変えた励ましの言葉は今も忘れないそうだ。

雨が降れば 傘を差せばいいのですよ

「琴風浩一」でNHK解説出演

 NHK大相撲中継の専属解説者に決まった元大関琴風の中山浩一さんは、今後、正面解説席に座り、しこ名を使った「琴風浩一」で幕内取組に出演する。福岡国際センターで開催される九州場所初日の10日は、元小結の舞の海秀平さん(56)が向正面席で対応した。

琴風豪規

 ことかぜ・こうき 1957年、津市栄町生まれ。中学2年の71年4月、元横綱琴桜(当時大関)に弟子入りし、同年7月、佐渡ヶ嶽部屋から初土俵を踏む。1メートル84、173キロ。大関在位は22場所、優勝2度。

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