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漫画家のあだち充さんの兄、勉さんの半生が漫画に……お酒が好きで多くの人に愛された

読売新聞 / 2024年11月18日 15時30分

 漫画家のあだち充さんの兄で、ギャグ漫画で活躍したあだち勉さんの半生をたどる『あだち勉物語 あだち充を漫画家にした男』(小学館)が完結した。弟子のありまたけしさんが、多くの人に愛された勉さんの姿を温かなタッチで描いた。1970年代の漫画に命をかけた若者たちの青春群像劇にもなっている。(池田創)

弟子・ありま猛さん 連載4年

『あだち勉物語 あだち充を漫画家にした男』ありま猛著

 あだち勉さんは巨人軍のダメ選手がレギュラーを目指すドタバタ作品「タマガワ君」などで知られ、ギャグ漫画の巨匠、赤塚不二夫さんのチーフアシスタントを務めた。充さんを漫画の世界に誘った張本人で、赤塚さんの全盛期を支え、型破りな振る舞いと人なつっこさで知られた存在だった。ありまさんは「面倒見の良い親分みたいな、アニキみたいな存在だった」と語る。

 ありまさんは児童養護施設で育ち、16歳で勉さんの仕事場を訪れ、弟子入りを志願した。「断られるかと思ったら、『一発やってみっか!』と言われてね。本当にうれしかった」。しばらくした後、勉さんの紹介で『BARレモン・ハート』の古谷三敏さんの仕事場に移り修業を積んだ。

 独立後は『船宿 大漁丸』など柔らかなタッチで市井の人々を描く作風を得意とし、90年代に手がけたパチンコにのめり込む人々を描く『連ちゃんパパ』が近年SNSで再注目されたことも話題になった。同作の主人公のモデルは勉さんで、『あだち勉物語』は弟の充さんの許可と協力を得て、小学館の漫画アプリ「サンデーうぇぶり」で2020年に連載が始まった。

 勉さんは酒好きのお調子者で、麻雀マージャンやパチンコなど大のギャンブル好きだった。不摂生な生活を送りながら、漫画雑誌をくまなく読み、時折ハッとするような指摘を後輩の漫画家たちに投げかけていた。作中には赤塚門下で『釣りバカ日誌』の北見けんいちさん、『総務部総務課 山口六平太』の高井研一郎さんのほか、各雑誌の編集者も実名で登場する。「あの時代は漫画家の先生と机を並べて一緒に仕事をして、自然と会話の中で勉強になることも多かった」

 丸っこいかわいらしい絵柄で個性的な漫画家たちが描かれていることに加え、当時の執筆現場の舞台裏が明かされているのも本作の特徴だ。漫画雑誌の全盛期で、原稿ができるまで編集者は仕事場に泊まることが普通だった。赤塚さんが率いるフジオ・プロダクションでは、アシスタントや編集者が参加し、『天才バカボン』などのギャグのアイデアを出し合う恒例会議があり、その様子も描き出している。「色んな人がいっぱいいて、色んなアイデアを出し合って、面白いものが生まれていた」

 独立後も勉さんとの交流は続いた。夜中に呼び出され、吉祥寺駅周辺で飲みにいくことも多かったという。晩年はがんに侵され、入退院を繰り返した。「亡くなる4日前に会いました。『お前の漫画も読めるようになったな』って珍しく褒めてくれたんですよ」

 勉さんは、「かたよったものばかり描いてはいけない」「仕事を断っちゃいけない。描けば、描けるんだよ」と語っていたという。その言葉に背中を押されるように、ありまさんは現在、新たなオリジナル作品を準備している。「娯楽作家として、様々なことに興味を持つ姿勢を大事にしてきた。それは勉さんから学んだことでもある。これからも勉さんの言葉を忘れずに頑張っていきたい」

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