会議めぐるブログ記事で共産党「追放」 「ご飯論法」作者・神谷貴行氏が提訴前に語った「党の存在意義」
J-CASTニュース / 2024年11月11日 21時0分
ブロガーで漫画評論家の神谷貴行氏。地位確認と損害賠償を求めて共産党を11月12日に提訴する
党首公選制を著書で主張したことなどが原因で、共産党のベテラン党員だった松竹伸幸氏(69)が党を除名された問題の影響が、さらに広がってきた。
渦中にあるのは、質問に正面から答えず、論点をずらすことを指す「ご飯論法」の考案者のひとりとしても知られる、ブロガーで漫画評論家の神谷貴行氏(54)だ。
神谷氏は共産党の専従職員でもあり、18年の福岡市長選に党推薦で出馬したこともある。そんな神谷氏が、党の福岡県委員会内の会議で松竹氏の処分への異論を唱え、その会議の決定などをブログで公開したところ、規約違反に問われて24年8月に党を除籍、解雇された。神谷氏は除籍・解雇までのプロセスで「パワハラ」があった、とも主張している。神谷氏は11月12日、党員や職員としての地位確認と損害賠償440万円、解雇以降の給与(月額27万3500円)支払いを求めて東京地裁で党を提訴する。神谷氏にその意図や共産党の現状、党の存在意義について聞いた。(聞き手・構成: J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)
規約で強要禁じている「自己批判」迫られ「一番つらかった」
―― 訴状では、「予備調査」(査問)が原因で「適応障害」と診断され、2回にわたって休職を余儀なくされたことが説明されています。一連の共産党の対応で、特にひどいと思われる点は、やはり「予備調査」ですか。県委員会の幹部が5対1で「自己批判」とブログ削除を迫ったということですが......。
神谷: 確かに「5対1」は相当きつかったのですが、問題としては副次的なものです。本質は、規約で強要を禁じられている(規約3条5号、同5条5号)自己批判をしなければ「追放する」と脅されていた点で、これが一番つらかったです。除籍・解雇の前に仕事を全部取り上げられて、仲間と接触を禁じられ、その間に党幹部が「松竹は党の破壊者・撹乱者で、福岡県での同調者は神谷だ」といったデマを公式の会議で流し続けていた、という点もこたえました。大企業でやっている「いじめ」と一緒です。
―― 松竹氏は除名処分を受けて党員の資格を奪われたわけですが(松竹氏は24年3月に地位確認を求めて提訴)、神谷さんは除籍(編注:共産党の規約上、除籍と除名は党員資格がなくなるという点で共通しているが、除名は「処分」の一部だとされている)に加えて雇用もなくなった、という点もポイントです。
神谷: 私としては、党活動の誇りや尊厳は、議員団の事務局として、議会質問でどうやって相手を追及するかといった点を、議員と一緒に開拓していくという仕事にありました。自分なりに、かなり貢献してきたという自負があるので、それ全部取り上げられて「一切仕事するな」「控え室に入ることなんてまかりならん」と言われて......。(「調査」のプロセスで)党員に権利制限をかけることは確かにあるのですが、必要な範囲で行うべきものであって、「とにかくこいつを痛めつけるために何でもやっていいだろう」といったやり方は絶対許されないはずです。裁判の一番のポイントは、自分が党員になって30年以上かけて積み上げてきたことが、一瞬で、それも全然身に覚えのないことで剥奪され、それが雇用とも密接に関係しているという点です。
「松竹に同調するやつはパージする」という「裏テーマ」
―― 神谷さんは18年には共産党推薦で福岡市長選に出馬するなど、いわば党から「推されて」いたわけですが、なぜパワハラのようなことをされるようになってしまったのでしょうか。「松竹問題」に過敏に反応しているのでしょうか。それとも、それ以前からの問題なのでしょうか。
神谷: ベースになっている組織の問題というものはあるのですが、やはり党幹部が松竹問題に過敏な反応をしているのが、今起きている問題の一番の本質だと私は思っています。私が松竹問題にからんで異論を言ったために睨まれた、ということです。ある会合で県委員長が発言した内容の記録があります。私に向かって話した内容を会合で紹介しています。
「あなたは重大な間違いをしているんだから反省すべきだ。自分(神谷氏)は松竹擁護について間違っていたと。反省して自己批判しなさい。そうすれば救われる。党に残れる。処分も受けるかもしれないけど、松竹氏みたいに除名とか、ああいうふうにはなりませんよ」
つまり、「松竹問題で間違えたので悔い改めろ。そうすれば助けてやる」という脅しです。これは(自分が除籍・解雇される原因になった)規約違反の問題では公式には問われていない点で、「松竹に同調するやつはパージする」という「裏テーマ」があるわけです。あまりにも理不尽です。
―― いったん「表のテーマ」についてうかがいます。福岡県委員会は神谷さんの除籍・解雇を発表する中で、「県委員会総会で誤りであると退けられた自分の意見を、県委員会総会の議論とともに、勝手にブログで発表した」ことを問題視しています。神谷さんは、ブログでは議論の内容は明らかにしていない、と反論していますが、実際のブログには
「私の発言に対して、数名の参加者から反論的な意見が出されました。これらをまとめ、それを聞いた私の認識として書き直せば次のような点になるでしょう」
とあります。これは議論の内容を公開したことにならないのですか。
神谷: 私への反論だと勇んで発言した会場の意見は私の言ったことや松竹問題とは関係ないものが大半でした。松竹氏との思い出話を語る人など「しょうもない」部分が多い上に、議論の内容を紹介することもできないので、私はあのブログで、赤旗の記事の中から、「なぜ松竹さんの除名を正当化できるのか」という論点をコピペしただけです。議論の内容を一切書かずに、党中央は私のような見解をどうやって批判しているのかを紹介したに過ぎません。
―― 先ほどの「ベースになっている問題」についていえば、24年に入って、現役党員を名乗る人が複数回にわたって匿名で記者会見し、党内のセクハラやパワハラを訴えています。こういった問題は、松竹問題よりも前からあったのかもしれませんが、最近になって一気に噴出した感があります。
神谷: 以前から「除籍」が「簡単な除名」として使われ、パワハラがその手段として使われることはありました。ですが、SNSが発達したり、松竹問題が社説含めてメディアで多く取り上げられたりするなど、党組織の側ではない事情で可視化される条件が整ってきたように思います。
赤旗「2000万円」スクープでも議席減の不思議
―― これだけ過敏に党が反応するのはなぜだと思いますか。共産党にとって重要な「民主集中制」に関係する議論だからですか。それともトップのパーソナリティーによるものですか。
神谷: この問題については「外れ値」のような暴走の仕方です。推察でしかないのですが、これはトップの方のパーソナリティーに起因しており、それを誰も止められない組織の体質が重なって、複合的・構造的に起きている問題だと思います。
―― 「トップ」といえば、1月には00年から委員長を務めていた志位和夫氏が退任し、田村智子氏が新たに就任しました。この10か月ほどで、党に何か変化はあったと感じますか。ブログの書き込みが問題視されたのが志位氏の時代、除籍・解雇が決まったのが田村氏の時代ですが......。
神谷: おっしゃる通り、表面的には悪化しています。志位時代には調査にとどまっていたのに、田村時代になったら私を除籍した、というのが表面的には起きたことです。党の登記を取ったら、今でも代表者は志位さんです。(党は)「国内政治での代表は田村さん」という言い方をしているので、それ以外の部分は実は今でも志位さんが代表で、事実上のツートップということだと思います。
―― 10月27日に投開票された衆院選の期間中、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が、自民党本部が裏金問題で非公認にした議員にも2000万円を支給したことを報じました。これは自民党にとって大きな打撃になったと考えられています。そもそも、裏金問題も赤旗の特ダネでした。にもかかわらず、共産党は公示前の10議席を8議席に減らしてしまいました。なぜこんなことが起こるのでしょうか。
神谷: 長い党員人生で、選挙の途中で共産党が打ったヒットが、これだけ世間に反響を与え、選挙結果に響いた例は見たことありません。「しんぶん赤旗の~」「共産党の~」といった出典はテレビや新聞でも繰り返し報道されるわけで、議席が「爆増」はしないとしても、多少は増えるだろう、というのが普通の感覚だと思います。ですが、比例票が80万票減り、議席も減るというのは、「高齢化している」「活動能力が落ちている」といった一般的な話では説明できないものがあると考えざるを得ません。
今回は松竹問題が起きてから最初の国政選挙で、党首討論でも閉鎖性を指摘される場面がありました。特に(共産党に)近い層が離反したまま戻ってこないとか......知識人や文化人もそうです。近づいてこようとする層の足が止まった......というのが、周辺で起きていることです。私の周りでも「今回は(共産党には)入れません」「れいわに入れます」「立憲に入れます」といった人が続出しています。地域の若い幹部で中心にいた人が去ってしまうとか、そういう事例をいくつも目撃しました。やはり、除籍・除名問題に端を発した閉鎖的な体質だ、という見方が尾を引いているのではないかと思います。
ボロボロでも古民家のように作り直して「少し役立てる」
―― 23年の福岡県議選に党公認で出馬した砂川絢音さんも除籍されました。どこの党でも高齢化は問題ですが、若い人が去ってしまうと、先細り感が強まりますね。
神谷: 私が見ていても、すごく優秀な活動家の人ばかりです。いろいろ人を組織する力や訴える力があり、真面目に勉強もする。本当に共産党にとって宝のような人たちだと思っていたのに、党幹部がそれを潰して回っている、というのが今起きている事態です。(党は)「どうして議席が減るんだろう」と言いますが、「あなたたちのせいですよ」としか言えません。
―― そんな共産党でも、復帰したい理由を改めてお聞かせください。例えば23年6月に除籍された南あわじ市議会議員の蛭子智彦氏は、復帰は「今の党なら、全然希望しないですね」と答え、今の共産党は「国民の利益と齟齬(そご)がある政党」とまで話しています。現時点での共産党の存在意義について、どのように考えますか。
神谷: よく「新党作らないの?」と言われることがありますが、共産党には一朝一夕にはできない役割があると思っています。3点あります。ひとつは、地域に根ざしたネットワークがあり、困った人の駆け込み寺になっているという点です。2つ目が、今回の赤旗のスクープのように、不正追及のための人的リソースがあるという点です。3つ目が、独自の政策集団を持っているので、不十分な点はあるかもしれませんが、官僚に頼らずに「こういう新しい道がある」と示せる点です。仮に私が新しい旗を立てたとしても、どれもすぐにはできません。もうボロボロではあるのですが、メンテナンスして、古民家のような感じで作り直して、もう少し役立てる方向にしたいと考えています。
共産党中央委員会広報部は、神谷氏による提訴を前に、
「神谷氏の訴状が届いているわけでもありません。したがってコメントは控えます」
とする談話を出している。
神谷貴行さん プロフィール
かみや・たかゆき 1970年愛知県生まれ。京都大学法学部卒。全学連委員長など歴任。88 年に日本共産党に入党。95 年より党職員。2006 年から福岡県委員会に勤務。党福岡市議団事務局長・県委員・県常任委員など歴任。18年に福岡市長選に立候補(無所属、共産推薦)。ペンネーム「紙屋高雪」(かみや・こうせつ)で「"町内会"は義務ですか?」(小学館新書)、「マンガの『超』リアリズム」(花伝社)、「不快な表現をやめさせたい!?」(かもがわ出版)など著書多数。「ご飯論法」の命名者として「2018 ユーキャン新語・流行語大賞トップ10」を上西充子氏と共同受賞。
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