T-岡田と安達了一が引退対談…オリックスの悲喜こもごもを語り尽くす〈関西発 月イチ! SPORTS〉
読売新聞 / 2024年11月14日 7時0分
今季限りで現役を引退したプロ野球オリックス・バファローズの岡田貴弘さん(36)(登録名・T-岡田)と安達了一さん(36)。「万年Bクラス(リーグ下位)」と言われた低迷期、現役生活終盤に経験したリーグ3連覇と、チームの浮き沈みを中心選手として支えた同い年の2人に思い出を語ってもらった。(聞き手・後藤静華)
――引退後の10月には渡米して元同僚の山本由伸投手がいる米大リーグ・ドジャースの試合を観戦した。観客席で野球を見ることはこれまでなかったのでは。
安達「社会人は見たことがあるけど、プロはなかった。楽しかった。でも、全然見方が違うよね。ファン目線で見ちゃう」
岡田「僕は本当になかった。やっぱり雰囲気が違う。楽しかった」
――山本投手からねぎらいの言葉もあったのでは。
安達「引退については『お疲れさまです』ぐらいかな」
引退試合には過去最多のファンが
――引退試合では球団の主催試合で過去最多のファンが集まった。入団当初では考えられない光景では。
岡田「そうですね。やっぱり3連覇してから、明らかにお客さんの入りは変わったなとは感じていましたけど。うれしかったですね」
――入団は岡田さんが6年先。親しくなったきっかけは。
安達「最初はそんなに話してないよね。でも入団1年目に自分が外野(守備の打球判断)でやらかして。そこからだよね」
岡田「(打球が)飛んだ所が難しい所で、どっちもどっちという感じだったのに結構先輩に怒られていて。僕は内野も外野もやっていて(気持ちも分かるし)、ちょっとかわいそうやなと思って声をかけた」
安達「(ご飯に)行ったかな、確か」
低迷脱却へ「誰よりも練習した」
――Bクラスが続いた低迷期も2人でチームを変えようと苦心した。
安達「結構ずっと(苦しい時間が)流れていたからね」
岡田「2014年に(勝率2厘差で)2位になってさ。その時の感覚があるから、その後の(低迷した)6年間は本当にしんどかった。チームの中心と呼ばれる立場でもあったし、でも野手の先輩は他チームからFA(フリーエージェント)で加入した人ばかり。教えてくれる人がいないまま中心選手になっちゃって。正直、どうしたらいいんやろうという状態だった」
安達「答えがなかった」
岡田「(当時監督の)福良(淳一)さんとは結構話をすることが多かったんで、直球で聞いたりしていました。このままじゃ来年もあかんなっていう雰囲気で『どうやったらよくなると思いますか』って」
――今思えば何が欠けていたか。
安達「新しい人が出てこなかったというのはあるかもしれない。(前監督の)中嶋(聡)さんは選手のことを知っているし、見ている。若い選手がやりやすくなった。ただ今季は、それが慣れに変わってしまった。緊張感を持ってプレーしないとあかんかった。そこで一番年上の自分たちが言えなかった。選手間で言い合うべきだったなと今は思う」
――出場機会が減った時期も引退はよぎらなかったのか。
岡田「熱量は変わらなかったですね」
安達「そうだね」
岡田「だから最後まで必死で練習をしていたし、『うまくなりたい』という気持ちをずっと持っていた。自分で限界を作ったらそこで終わり。だから若い選手はなんで練習しないんやろう、もったいないなと思う」
――安達さんは遊撃手じゃなくなった時が辞める時と以前話していた。
安達「考えが変わったというか、やっぱり野球をやりたかったから。できる限り長く野球をやりたい、という思いだった」
思い出の監督は…森脇さん(安達)岡田さん(岡田)
――2人ともオリックス一筋。移籍を考えたことは。
安達「色んなチームを見てみたかったですけどね。でも自分は(難病の潰瘍性大腸炎の)病気があって、球団にもファンにもお世話になったから。オリックスにいたいと思った」
――岡田さんは19年に移籍も考えていたと。
岡田「全然覚えてない。試合に出たかったので環境を変えたいという気持ちがあったのかな。でも、やっぱりこの球団で(優勝したい)っていうのがずっとあったので、移籍は違うなと」
――思い出深い監督は。
安達「みんな思い出深いですけどね。でも、自分は森脇(浩司)さんにすごくお世話になりました。森脇さんはとにかくずっとノック。あの練習をやったからここまで来られたと思います。一度練習がきつすぎてふてくされてしまって、『ユニホームを脱げ』と本気で怒られたけど、試合に出ていくうちに分かってきて、楽しくなっていった」
――「本塁打が打てる遊撃手」として入団。むしろ打撃が得意だった。
安達「プロに入って打撃じゃ絶対に無理だと思った。マーくん(楽天・田中将大投手)から3三振して、あれはダメージが大きかった。こりゃあ打てないと。生きる道は守備しかないと、2年目には切り替えましたね」
岡田「僕は岡田(彰布)さん。自分を見いだしてくれて、我慢して使ってくれた。当時はノーステップ(の打撃フォーム)を勧められた時くらいしか、直接話したり指導を受けたりする機会はなかった。だから試合後は、新聞の監督コメント(で何と評価されているか)を気にして探していました」
〈オリックスは2000年オフにイチローさんが米大リーグに移籍して以降、低迷。15年からの6年間は3度の最下位を含め、全てBクラスに沈んだ。その後、21年からは3連覇を達成。岡田さんは同年、負ければロッテに優勝マジックが点灯する一戦で逆転3ランを放つなど、25年ぶり優勝に大きく貢献した〉
――21年からの3連覇はどうチームを見ていたのか。
岡田「自分は2回目、3回目(の優勝時)はあんまり力になれていない。でも呼んでもらったらチームの力になれるようにという思いでしたね」
安達「チームのために自分を犠牲にして、小さいことでもいいからやってやろうという気持ちでいました」
――試行錯誤したことが報われた期間でもあった。
岡田「2人とも言葉で引っ張っていくタイプじゃないので、とにかくプレーで引っ張るしかないというのはあったよね。だから誰よりも練習したと思うし」
難病と闘い「まさか日本一とは」
――最も印象深いのもこの3年間か。
安達「まさか優勝して日本一になれるなんて思ってもみなかった。日本一になった瞬間が一番かな。(22、23年はケガで出場機会が減った)T(―岡田)が出ていたらもっとよかった」
岡田「僕は1回目の優勝が何よりも嬉しかった。ちょっとは貢献できたかなっていうのもあるし、14年に(優勝争いを)最後までやって逃した悔しさがあったから。それこそ安達と色々我慢してきてよかったって思いましたね」
――これからのチームに期待することは。
安達「選手間で言い合えるチームが強いと思う。(森)友哉とか(若月)健矢とか、そういう選手が意見を言ってくれたらいい」
岡田「レギュラーの選手たちが当たり前のことを当たり前に、何事も全力で取り組んでほしい」
――安達さんは秋から一軍の内野守備走塁コーチに就任。指導者像は。
安達「理想像みたいなのはないですけどね。選手がやりたいことをサポートするだけ。(ノックを)やりたいと言われたらやるし、守備(の練習)をもっとやらせたいという思いはありますけどね」
――岡田さんは元阪神の赤星憲広さんがオーナーを務める少年野球チームでアドバイザーを務める。
岡田「一度、プロ野球の外から野球を見て、もっと知識をつけたいと思っています。今後どのカテゴリーを教えるかは分からないけど、選手の役に立てるように。海外へコーチ留学することも頭にはあります。オリックスに戻ってきたい気持ちももちろんあります」
おかだ・たかひろ 大阪府吹田市出身。大阪・履正社高では通算55本塁打を放って「浪速のゴジラ」と呼ばれ、2006年に高校生ドラフト1巡目で入団。登録名を「T―岡田」と変更した10年、33本塁打を放って本塁打王に輝いた。21年には17本塁打63打点で25年ぶりのリーグ優勝に貢献。通算成績は打率2割5分7厘、1193安打、204本塁打、715打点。
あだち・りょういち 群馬県高崎市出身。2012年に東芝からドラフト1位で入団した。16年1月に国指定の難病「潰瘍性大腸炎」と診断されたが118試合に出場し、リーグ優勝した21年も100試合出場と活躍。主に遊撃で守備の名手としてチームを支えた。通算成績は1176試合出場で打率2割4分5厘、906安打、325打点、127盗塁。
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