米国の保護主義 「トランプ関税策」を憂慮する
読売新聞 / 2024年11月13日 5時0分
トランプ次期米大統領が、「米国第一」を掲げて保護主義的な政策を進めれば、世界経済に深刻な打撃を与えよう。
何が米国の利益になるかを熟慮し、独善的な関税策を自制するよう期待する。
トランプ氏が大統領選で公約したのが、海外からの輸入品に高い関税を課し、自国内の産業を守る政策だ。全ての輸入品に一律10~20%、中国に対しては一律60%の関税を課すという。
米国が一方的に関税を課せば、中国や欧州などが報復し、貿易戦争の再燃は避けられなくなる。
国際通貨基金(IMF)の試算では、次期米政権の政策や関税の応酬による貿易量の縮小などによって、世界全体の国内総生産(GDP)は、2026年までに1・3%減少する見通しだという。
世界経済は、モノやサービスの自由な貿易を推進することで発展してきた。世界最大の経済大国である米国は、自由貿易を支える中心だったはずだ。
グローバル化が進んで製造業が空洞化し、労働者の反発が強まっている事情はあろう。米経済は全体として際立った強さを示すが、低所得者層は物価高に苦しむ。
だが、保護主義的な政策は十分な雇用を生み出さないどころか、かえってインフレを再燃させる。これではトランプ氏の支持者を落胆させるだけではないか。何が国益になるのか、現実的な視点に立ち、政策を進めていくべきだ。
日本経済にとっては、自動車産業への影響が心配だ。米国は年約150万台を輸出する最大の輸出先で、高関税が課されれば価格競争力が著しく低下しかねない。
2国間のディール(取引)を重視するトランプ氏は、関税をてこに、米国内での生産拡大などを迫ってくると想定される。
日本から米国への直接投資残高は23年末時点で、約7800億ドル(約120兆円)に上り、国別では5年連続でトップだ。日本の自動車産業も、米国での現地生産で多くの雇用を創出している。
日本政府はこうした貢献を粘り強く訴えていくことが重要だ。
トランプ氏が、多国間の枠組みを軽視する姿勢も懸念される。1期目に環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱し、バイデン政権が推進したインド太平洋経済枠組み(IPEF)にも否定的だ。
米国が最も警戒する相手は中国であろう。日本は欧州などと連携し、不公正な貿易慣行の是正を迫るには、多国間の枠組みこそが有効だと訴えていってほしい。
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