赤字常態化の3セク鉄道「危機のレベル変わった」…沿線自治体「離脱したいという話も出てくる」
読売新聞 / 2024年11月13日 10時22分
住民や観光客の「足」として地域を支えてきた各地の「第3セクター鉄道」が、岐路に立たされている。人口減にコロナ禍や物価高が重なり、自治体による赤字
「レベル超えた」
「『ちょっと厳しいな』というレベルを超えた」。10月末、地域公共交通活性化・再生法に基づき、同鉄道の経営改善策を考える「法定協議会」の設置を福岡県の服部誠太郎知事に求めた田川市の村上卓哉市長は苦渋の表情を浮かべた。
石炭輸送のために敷かれた旧国鉄の鉄路約50キロを継承し、1989年に開業した平成筑豊鉄道だが、沿線の人口減とともに乗車人数は1日平均3320人とピーク時の3分の1に落ち込んだ。現在は年2億~3億円の赤字が常態化している。
厳しい経営を助けてきたのが、沿線9市町村の助成金だ。2020~22年度は2億4000万円、23年度には3億円を投じた。ところが、近年の燃油高の上昇を受け、今年度はさらに1億5000万円を追加する予定で、何とか資金不足を逃れる筋道を立てた。
ただ、線路や車両の更新時期が訪れる26年度以降、赤字額は毎年10億円前後まで膨らむ見通しだ。河合賢一社長は「コロナ禍で乗客を失い、災害も頻発している。苦しさの『質』が変わった」と吐露する。
県は、法定協を今年度設置する方針だが、市町村側も一枚岩とは言えない。首長のひとりは「懐具合が違う。負担に応じたメリットがない地域からは、離脱したいという話も当然出てくるだろう」とみる。
乗客の半数を占める学生の間では、すでに動揺が広がっている。同県福智町の高校1年の男子生徒(16)は「バスはないし、自転車では遠い。なくなったら、通学が難しくなる」と話す。
コロナ禍が拍車
全国41社が加盟する「第三セクター鉄道等協議会」(東京)によると、加盟社の9割にあたる37社が昨年度決算で経常赤字に陥ったという。19年度時点では33社で、コロナ禍が各社の経営難に拍車をかけた形だ。
中でも赤字幅が大きいのが、熊本―鹿児島両県を結ぶ「肥薩おれんじ鉄道」の約8億8000万円だ。海沿いを走る観光列車でも知られるが、20年の九州豪雨で被災し、打撃を受けた。
貨物輸送でも頼る鹿児島県側は、県市町村振興協会が昨年、5年間で最大7億1900万円の支給を決めたが、「今回限り」とする条件をつけた。両県は今年度中をめどに設置する法定協で経営改善を図る考えだ。
多額の負担
平成筑豊鉄道では、「上下分離方式」かバス高速輸送システム「BRT」の導入、路線バスに転換――の3案が検討される見通しだ。
事業者は運行に専念し、自治体などが線路や駅の管理を受け持つ上下分離方式は、路線維持の「切り札」とも言われる。16年の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の「南阿蘇鉄道」は、この方式を採用して23年7月に全線で再開した。JRへの乗り入れを実現して利便性も高まり、23年度決算は黒字を達成。ただ自治体には毎年負担がかかり、県は同年度、施設整備費など約1200万円を支出した。
線路をバス専用道に切り替えるBRTの導入には、多額の整備費が必要となる。長崎県や地元自治体が見直しに関与する同県の民営鉄道「島原鉄道」では、BRTを早々に見送り、上下分離と路線バスの2案に絞った。だが、運輸業界が人手不足に陥る中、バスの運転手確保も至難の業となる。
公共交通網の消滅による地方の衰退を防ぐため、国土交通省も23年度から、鉄道やBRTの施設整備にかかる自治体負担の半額を補助する仕組みを導入。まちづくりや観光戦略に結びつけることを条件に交付する。
関西大の宇都宮浄人教授(交通経済学)は「赤字にとらわれがちだが、渋滞を起こさずに多くの人が移動でき、環境に優しい鉄道路線は地域の財産だ」とし、「法定協では、若者から高齢者までが安心して暮らせる地域を維持する方策を議論し、地方から国に声を上げていくことも必要だ」と指摘する。
◆第3セクター鉄道=官民が共同出資して設立する鉄道事業者。1987年の国鉄民営化に伴い、1日の利用者が1キロあたり4000人未満の不採算路線を存続させるために転換した事例が多い。
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