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加藤登紀子さん、知床旅情を作詞作曲の森繁久弥さんと「不思議な縁がある」…同じ年・同じ場所に引き揚げ

読売新聞 / 2024年11月13日 9時19分

インタビューに応じる加藤登紀子さん(9月29日、羅臼町で)=原中直樹撮影

 「知床旅情」で知られる歌手の加藤登紀子さん(80)が、9月29日に知床半島の北海道羅臼町でライブを開いた。来年、発表から65周年となる名曲はこの地で生まれた。加藤さんは読売新聞のインタビューに応じ、知床旅情と、同じく来年に世界自然遺産登録から20周年を迎える知床への思いを語った。(聞き手・石原健治)

 ライブでは元気をもらいました。知床は私を育ててくれた故郷。漁師が大好きなんですよ。なんか哲学者みたいでしょ。

 <加藤さんは1943年、満州(現中国東北部)のハルビンで生まれた。ソ連が中立条約を破って侵攻すると、加藤さん一家は満州を引き揚げ、長崎県の佐世保港に着いた。根室、網走地方では、北方領土やサハリンからの引き揚げ者が多く暮らした>

 知床旅情が大ヒットした71年、知床を初めて訪れると各地で歓迎会を開いてくれた。忘れられないのが、サハリンから引き揚げて知床に移住した女性との出会いでした。私の生い立ちを知っており、温かく迎えてくれて「あんたは私の娘だ。知床はあんたのまちだよ」と言ってくれたんです。

 <知床旅情を作詞作曲した俳優の森繁久弥さんもNHKアナウンサー時代に満州で過ごし、佐世保港に引き揚げた>

 同じ年、同じ場所に引き揚げ、森繁さんとは不思議な縁がある。森繁さんは私の歌声を聞き、「ツンドラの冷たい風を感じる」と抱きしめてくれた。コンサートでは皆さん、特に若い人に「知床旅情を生んだ映画『地のはてに生きるもの』をぜひ見てください」と呼びかけました。

 <「地の涯に生きるもの」は戸川幸夫の「オホーツク老人」を原作に、森繁さんの主演で60年に公開された。羅臼村(当時)や斜里町で撮影が行われ、元町長の午来昌ごらいさかえさんも出演した>

 知床生まれの漁師・彦市が国後島でサケマス漁の網元として成功したが、終戦後のソ連侵攻で島を追われ知床へ帰郷。長男は流氷で転落死、次男は戦死、三男は羅臼沖の海難事故で命を落とすという話です。この海難事故は実際に起きた出来事がもとになっています。森繁さんが私費を投じて作った素晴らしい作品なんです。

 <ロケを終えて知床を離れる日、森繁さんは羅臼の人々の前で、前日に作詞作曲した「さらばラウスよ」を共演した女優の草笛光子さんと歌った。それが後の知床旅情となる>

 映画で森繁さんはボロボロの服を着て彦市じいさんを演じた。後年、同じ姿でよみがえったのが、はまり役となったミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」の主人公、テヴィエです。ウクライナの地でユダヤ人一家が祖国を追われる悲劇の物語で、「地の涯に生きるもの」と「屋根の上のバイオリン弾き」は森繁さんの人生そのものなんです。

 知床旅情と、ラトビアで生まれた「百万本のバラ」は、生まれ故郷を追われた私の人生の歌。私の心は知床の皆さんと握手をしている。また、ここで歌うわ。

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