1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

フィンランドの国民食「カレリアンピーラッカ」…コメを包み焼きにしたパイ、国難を象徴する郷土料理です

読売新聞 / 2024年11月15日 9時20分

 ロシア北西部にカレリア共和国という行政区画がある。その一部はかつてフィンランド領だった土地だ。第2次大戦中にソ連軍が占領した結果、約40万人が故郷を追われ、フィンランド各地に散らばった。

朝食に食べる人が多い

 そのカレリア地方の代表的な家庭料理に、「カレリアンピーラッカ」がある。コメを包み焼きにしたパイである。カレリア人の離散に伴って全土に伝わり、やがてフィンランドの国民食と呼ばれるようになった。

 見た目はクリーム菓子だが、材料はライ麦粉と白米が主体で、それに牛乳、バター、塩だから、いわゆるスイーツではない。朝食に食べる人が多いという。

 カレリア人団体が運営するヘルシンキ東部のカフェ「ビラ・サルメラ」で、焼きたてをごちそうになった。味はほのかにバターが香る程度で、甘くも辛くもない。ところが生地はカリカリで香ばしく、コメはふわりと軟らかく、そのバランスが何とも舌に心地よい。

バター入りスクランブルエッグをのせるのが正統派

 そのままでもおいしいが、バター入りスクランブルエッグをのせるのが正統派だという。要はご飯に卵をのせるわけだから、相性は良い。きわめて素朴な組み合わせだけに、飽きずに毎日でも食べられそうだ。

 店長でカレリア地方のフィンランド側出身というメリヤ・ナウマネンさん(62)が作り方を見せてくれた。工程は全て手作業だ。パイ生地に木の棒を押し当て、額に汗しながら、ぐりぐりと延ばす。全体を薄く均等に延ばさないとおいしく仕上がらないという。「この作業は機械にはできない」と胸を張った。

 フィンランドでカフェに入れば必ず見つけられるだろう。値段は1個1~4ユーロ(160~650円)程度。スーパーでも買えるが、焼きたてに勝るものはない。

おすすめは老舗カフェ

 ヘルシンキ中心部で食べるなら、1949年創業のカフェ「コンディトリア・ホペア」がおすすめだ。カレリア出身の初代オーナーが残したレシピが受け継がれ、遠方から訪れる客もいる。

受け継がれる民族の記憶

 カレリア地方は寒冷地帯だ。人々はほぼ一年中ストーブをつけており、それをオーブンとして活用したため、パイのように高温で時間をかけて焼く料理が発達したという。

 カレリア地方はまた、フィンランド文化発祥の地とされる。作曲家ジャン・シベリウスは、ロシア統治時代にフィンランドの独立を願ってやまず、祖国と民族への思いを込めて「カレリア組曲」(1893年)を作っている。

 しかし、フィンランドは1940年、カレリア地方の大部分を割譲せざるを得なかった。圧倒的戦力で侵攻してきたソ連軍との死闘の末、独立を守るために迫られた苦渋の選択だった。

 一地方の郷土料理にすぎなかったカレリアンピーラッカが、国民食とまで言われるようになったのは、ただおいしかったからだけではない。この国の苦難の歩みの象徴なのだ。

 フィンランド人なら、誰もが子供の頃にカレリアンピーラッカを作った思い出があるという。このパイと共に、民族の記憶が受け継がれてゆくのだろう。

 国内外の総支局長が、地域の自慢の味を紹介します。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください