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北海道スペースポート整備「大樹町で年間10機のロケットを打ち上げたい」…スペースコタン・小田切義憲社長

読売新聞 / 2024年11月14日 13時0分

インタビューに答えるスペースコタンの小田切社長(北海道大樹町で)

 北海道東部の十勝平野で、ロケットの打ち上げに使う商業宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」が整備されている。地元の大樹町とともに運営を担うスペースコタンは、宇宙産業を通じた地方創生を目指している。小田切義憲社長に話を聞いた。(聞き手・バッティー・アイシャ)

1985年から取り組み

 ――事業を始めたきっかけは。

 「宇宙港、スペースポートを作るという事業は、1985年から大樹町が時間をかけてやってきた取り組みで、2021年4月に会社を設立し、いよいよ本格的な事業になった。

 歴史を遡ると、宇宙航空研究開発機構(JAXAジャクサ)の前身がかつて、日本版のスペースシャトルをやろうという計画があった。その実験場所を探していた。スペースシャトルは垂直に打ち上げる射場と降りてくる滑走路の1セットが必要になる。そうした実験ができる場所が日本にはなく、大樹町が受け入れて準備をしていたら、計画がなくなった。

 せっかく施設があるので、皆さんに使って頂きましょうという話になった。飛行船が成層圏に入ったときに、アンテナ替わりに無線通信できないかといった実験などを40年ぐらいやってきた」

 ――発射場整備の状況は。

 「民間ロケットの打ち上げ射場『LC―1』を建設中で、25年度の完成を目指している。大樹町に拠点を置くロケット開発の振興企業、インターステラテクノロジズが開発中の小型衛星向けロケット『ZERO』の打ち上げを予定しており、準備を進めているところだ。

 6月には滑走路の延伸工事が完了し、1000メートルから1300メートルに拡張された。より規模の大きい実験や、機体の受け入れが可能になった。高頻度で多様な打上げに対応するための新たな射場『LC―2』や、宇宙空間を経由して大陸2地点間を高速で移動するP2P輸送用の3000メートル滑走路の整備も計画している」

『天然の良港』アピール

 ――海外企業にも、積極的にHOSPOを売り込む。

 「航空業界でキャリアを積んできたが、宇宙業界と事業面の共通点は多い。航空における空港ビジネスは、航空会社と契約して乗客を運ぶ。宇宙港のビジネスは、ロケット事業者と契約し、人工衛星や将来的には乗客を運ぶ環境を整備する。

 国は、30年代前半までに、年間30機のロケットを打ち上げることを目標に掲げている。我々は、将来的には大樹町で年間10機を打ち上げたいと考えている。そのために、海外からも事業者を呼び込んでいきたい。台湾のロケット打ち上げ事業者の日本法人、jtSPACEは大樹町から打ち上げることを表明しており、関係各所と調整を進めている。

 大樹町は土地が広く、東と南の両方が海に面していて、打ち上げ環境に適している。市街地から車で20分ほどの場所に射場があり、帯広市まで約1時間と、アクセスも良い。『天然の良港』であることを、ヨーロッパをはじめ、世界の国々にもアピールしている。

 日本の法令は海外からの参入障壁となる懸念がある。高圧ガス保安法や電波法などは本来、ロケット打ち上げを想定していない。日本は諸外国よりも規制が厳しいので、特区を設けて緩和することなどを考えてもらえると、手続きも容易になり、ロケット事業者の利便性は高まる」

 ――海外の商業宇宙港と覚書を結んだ。大樹町での打ち上げ増加に期待がかかる。

 「民間企業による宇宙産業が拡大し、ロケットや人工衛星の打上げ需要が高まっている。ロケット事業者は打上げ機会を確保するため、世界の複数宇宙港での利用を検討する動きが始まっている。

 ロケット射場は、機体の特徴に合わせた設備が必要なため、施設や設備の共通化を図る。そうすれば、日本で造ったロケットが米国で打ち上げられ、米国のロケットがHOSPOから打ち上げられる。(宇宙港同士が連携する)P2Pを見据えた運営も検討していく」

経済波及効果、年267億円

 ――北海道に宇宙産業が集積する「宇宙版シリコンバレー」をつくることを目指している。

 「HOSPOが整備されることによる道内の経済波及効果は年間267億円、約2300人の雇用創出、観光客は約17万人増加するという試算が出ている。大樹町には宇宙関連の企業が集積し始め、室蘭工業大学などもサテライトオフィスを設置した。

 人口5300人ほどの町だが、飲食店がオープンしたり、宿泊施設が建設されたりしている。宇宙産業の集積ができれば、従事する人が増え、店が増える。雇用も生まれ、街全体が活性化していく。ロケットの打ち上げには多くの見学者が訪れる。近隣市町村のホテルに泊まってもらえれば、大樹町だけでなく十勝管内や北海道での経済波及効果が見込める。

 この動きを加速させるために、重要な課題の一つは人材確保だ。進路を決める前の子どもたちに、宇宙工学や専門分野を学び、生かせる場所が大樹町にあることを伝えていかなければいけない。中学・高校の修学旅行を受け入れているほか、10月に帯広で開かれた『北海道宇宙サミット2024』では、大樹高校の生徒にボランティアをお願いした。若い人たちに宇宙に興味を持ってもらえるよう、学校や大学とどのように連携できるか考えていきたい」

◆小田切義憲氏(おだぎり・よしのり) 全日本空輸を経て、2012年、エアアジア・ジャパン社長に就任。16年にANA総合研究所入社。自治体、空港管理会社が発注する空港の活性化に関する調査・研究を担当。21年4月からスペースコタン社長。東京都出身。

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