ロケット・ゼロ開発「打ち上げ費用で競争力、小型衛星をターゲットにした小型ロケットに特化」…インターステラテクノロジズ・稲川貴大代表取締役CEO
読売新聞 / 2024年11月14日 13時1分
インターステラテクノロジズは、北海道大樹町で小型ロケットの開発から打ち上げまでを手がけている。2019年には、国内の民間企業で初めて、単独開発したロケットが宇宙空間に到達した。コストがかからず、発射の頻度が高いロケットを目指して開発を続けている。稲川貴大代表取締役CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。(聞き手・バッティー・アイシャ)
8億円以下目指す
――小型人工衛星打ち上げロケット「ゼロ」の開発に力を入れている。
「ゼロは全長32メートルで、打ち上げ費用は量産段階で8億円以下を目指している。競争力のある価格設定が強みだ。燃料は、北海道十勝地方の牛のふん尿から製造した液化バイオメタン(LBM)を使っており、環境にもやさしい。できるだけ早く、大樹町で打ち上げるために開発を急いでいる。
技術的には、LBMを使ったエンジン燃焼器の燃焼試験に成功した。エンジンの心臓部になる、ターボポンプの性能を確かめる試験も終わっている。こうした単体の試験を行っている最中で、今後はいろんな部品を集めた統合試験を行い、最終的にロケットを打ち上げるというステップで進めていく。
事業面では、イタリアで人工衛星の物流サービスを手がける新興企業『D―Orbit』社と包括契約を結んだ。グローバルに展開する足がかりになると思っている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とも協定を結び、衛星を打ち上げる時にロケットの使用で優先的に契約を結ぶ事業者の一つに選ばれた。この1年で官民の顧客開拓が進み、大きな進展があった。
国からのサポートもある。文部科学省が宇宙関連のスタートアップ(新興企業)の経費を補助するSBIR制度に採択された。昨年の20億円に続き、今年は約46億円の交付が決まったところだ。これまでの実績を評価してもらえた。この資金でゼロの初号機打ち上げに向け、開発を進めていきたい」
大樹町、世界有数の打ち上げ拠点
――グローバルに戦う上での強みは何か。
「近年の市場拡大をけん引する、小型の衛星をターゲットにした小型ロケットに特化している点だ。
大型ロケットと小型ロケットは、たとえるならば、バスとタクシーだ。小型ロケットは衛星を運ぶ1機あたりの費用は高くなるが、投入する軌道や打ち上げのタイミングを自由に選べる。米起業家イーロン・マスク氏が率いる宇宙関連企業、スペースXは大型ロケットを開発しており、すみ分けができている。
また、使用する液体燃料は、固体燃料と比べ振動が少なく、低負荷で人工衛星を運べるところも強みだ。
製造費も抑えている。生産技術や試験など多くの工程を内製しており、柔軟な設計が可能だ。少ないパーツでシンプルにエンジンなどを構成できるよう、部品点数を削減している。低コスト化や柔軟な対応で、競争力のあるロケットを実現できる。
地理的な優位性もある。ロケット発射場のある国が限られる中で、日本には鹿児島県の内之浦と種子島、和歌山県串本町、そして、大樹町にもある。中でも大樹町は東と南方向に海が広がり、世界でもトップクラスの打ち上げ拠点だ。北海道から打ち上げるという選択もまた、強みの一つだ」
――ロケットだけでなく、人工衛星開発も手がけている。
「今もインターネットに接続できない人は世界に30億人いると言われており、地上の通信インフラでカバーされていない地域は多い。多数の超小型の人工衛星が電磁石の力で隊列をなし、大きな一つのアンテナを構築することになれば、高速衛星通信が可能となる。スマートフォンや自動車と直接つながる世界を作り出すべく、総務省などと研究開発を行っている。
宇宙産業は、地球に暮らす人の生活が良くなるという点が大事だ。ロケット会社が人工衛星事業を有するという垂直統合の強みを生かしていきたい」
◆稲川貴大氏(いながわ・たかひろ) 東京工業大(現・東京科学大)大学院修了。2013年インターステラテクノロジズ入社。14年から代表取締役。技術者出身の経営者としてチームを主導し、19年に観測ロケット「MOMO(モモ)」で、日本初となる民間単独開発のロケットの宇宙到達を達成した。埼玉県出身。
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