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存続の危機のローカル線、路線廃止か「上下分離」か

読売新聞 / 2024年11月15日 13時30分

 ローカル線は、地域住民の生活の足や観光客の移動手段として使われてきました。人口減少が進み車社会が定着した現在は、利用者が減って路線の赤字が続き、バスなど代替交通に転換する動きが各地で起きています。地域の公共交通をどう維持するのか、皆さんはどう考えますか。

[A論]維持して沿線振興…「上下分離」経営負担減

 新潟県魚沼市から福島県会津若松市までの総延長距離135・2キロを結ぶ、JR只見線。2011年7月の新潟・福島豪雨で橋が流失するなどして不通となりましたが、22年10月に全線で運転を再開しました。沿線住民の交通手段となっているほか、車窓からの山岳風景が、鉄道ファンに愛されています。

 鉄路の利点は、交通渋滞や天候に左右されず、時間通りに運行される点です。

 会津若松市の病院への診察や友人宅への訪問のため、月2~3回利用する福島県只見町の男性(86)は約3年前に自動車の運転免許を返納、「只見線は雨風に左右されず安全だ。地元のシンボルとして愛着もある」と力強く語ります。只見町交流推進課の目黒康弘課長は「只見線は貴重な観光資源でもある。線路の維持は、地域活性化に必要だ」と強調します。

 国土交通省によると、22年度には全国の鉄道事業者95社中、9割にあたる85社が赤字に陥り、利用者の減少で採算が悪化するローカル線の維持に苦慮しています。全国知事会は「ある線区が廃止された場合、残された線区の利用者がさらに減ることで負のスパイラルに突入する」と路線維持を要望。沿線自治体の一部は、鉄道事業者と誘客イベントや旅行商品の開発を一緒に行っていますが、赤字を解消するほど成果を上げるのは難しいのが現状です。

 そんな中、自治体が施設を保有・管理し、列車運行を鉄道事業者が担うなどし、経営負担を減らす「上下分離方式」を導入する動きが、相次いでいます。

 只見線もその一つです。復旧費約85億円と赤字運営が足かせとなり、再開は難航しましたが、鉄路復旧に熱心な地元に対し、JR東日本が上下分離方式を提案しました。只見線の年間運営費のうち約2億1000万円は県と沿線17市町村が負担、うち只見町が1900万円を支出しています。福島県は、会津川口―只見間の22年10月からの1年間の利用客数について約6億1000万円の経済波及効果があったと推計します。

 滋賀県東部を走る近江鉄道は今年4月から上下分離方式で運行、列車運行のみ負担するため、今年度の鉄道事業は1993年度以来の黒字となる見込みです。2020年7月の九州豪雨後、一部区間の運休が続くJR肥薩線も上下分離方式での運行で基本合意に至りました。

 公共交通に詳しい江戸川大の大塚良治教授(経営学)は「様々な移動手段の確保は、災害対策の面でも重要だ。鉄道事業者や行政は、運行を続ける知恵を絞ってほしい」と指摘しています。

[B論]バスでも代替可能…利便保ち コスト軽く

 JR西日本は2018年、広島県三次みよし市と島根県江津ごうつ市の108・1キロを結んでいた三江線を経営改善のために廃止しました。広島、島根両県と沿線6市町は協議会で代替交通を話し合い、廃線と同時にバスなど14路線を開通、現在は10路線が運行します。

 代替交通は民間事業者と一部市町で運行、国や両県も補助します。主要区間の運賃は当初、三江線の1・2~2・1倍に設定されました。各自治体は、鉄路維持に比べ、運行コストは小さいと判断したようです。

 JR西によると、15年度の三江線の赤字額は約9億円でしたが、島根県によると、代替交通の赤字額は20年10月からの1年間で計約2億200万円にまで減少しました。バスの利点は、比較的自由に停留所を設定できる点です。勤務先のスーパーに代替バスで通勤する島根県美郷町の女性(65)は「三江線の最寄り駅まで徒歩15分だったが、今はバス停まで1分。バスを降りると店は目の前だ」と「駅近」を実感しています。

 島根県邑南町で予約制の乗用車を運行するNPO法人「はすみ振興会」の初谷慎吾さん(63)も「希望する場所で乗り降りでき、高齢者は重宝している。地域住民が運転するので見守りにもなる」と話します。

 三江線の跡地では、邑南町のNPO法人「江の川鐵道てつどう」がトロッコを走らせるイベントに取り組んでいます。日高弘之理事長(83)は「鉄道遺構を人が呼べる観光スポットにしたい」と狙いを言います。

 国土交通省によると、1987年の国鉄民営化後、JR各社の廃止路線は北海道や東北、中国などの計19路線に及びます。災害をきっかけに廃線となるケースも目立ちます。岩手、宮城両県の沿岸にある大船渡、気仙沼両線の一部は東日本大震災後に不通となり、専用道や一般道をバスが走るBRT(バス高速輸送システム)に変わりました。

 2015年の高波被害で運休、21年に廃線となったJR北海道の日高線鵡川―様似間。鉄路を維持するため、JR北が沿線7町に毎年13億4000万円の財政支援を求めたことなどから、バス転換で合意しました。沿線の様似町担当者は「財政支援の捻出は難しく、施設の復旧にも時間がかかる。バス転換は妥当だった」と振り返りました。

 青山学院大の福井義高教授(会計学)は「大量輸送が前提の鉄道は、人口減が続く地方での役割を終えた。鉄道会社は撤退時に代替交通の定期券を安くし、ガソリンスタンドを運営するなど、交通を維持するための条件を示すことも必要だ」と指摘します。

「協議会」国が議長役

 国は鉄道の設備更新、インバウンド対策などサービス向上への支援のほか、赤字路線を巡り自治体と鉄道事業者が議論する協議会を設置するなどし、地域交通の確保に力を入れています。

 南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害に備え、橋やトンネルなどの鉄道施設の長寿化を図る工事費用の一部を補助。新幹線の整備に伴う並行在来線についても沿線自治体が出資する際、施設更新などの経費も支援しています。

 また、インバウンド需要の拡大で経営改善を図るため、車内案内の多言語化やICカードの導入なども援助しています。

 昨年10月には、鉄道事業者と沿線自治体の話し合いの場を国が組織する「再構築協議会」を設置できるようにしました。

 協議会は自治体か鉄道事業者の要請に基づいて設置、国が議長役を務めます。鉄道存続や廃止という前提は置かず、観光列車の運行で鉄道の利便性を高めたり、バス転換の効果を検証したりする実証事業を行いながら議論し、地域の実情に合った方針をまとめます。 JR西日本は、芸備線備中神代(岡山県新見市)―備後庄原(広島県庄原市)間について協議会の設置を要請、今年3月に全国初の協議会が開かれました。

 国土交通省の担当者は「国が第三者的な立場で協議会を運営するので、議論の停滞を防げる。会議を開くメリットを自治体にも力強く訴えていきたい」と話しています。(東京地方部 長谷裕太、松江支局 佐藤祐理)

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