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綾瀬はるか主演、高純度のロードムービー「ルート29」…やさしくて鋭い現代のおとぎばなし

読売新聞 / 2024年11月15日 17時15分

のり子(綾瀬はるか、左)とハル(大沢一菜)=(C)「ルート29」製作委員会

 綾瀬はるか主演で森井勇佑監督が撮った「ルート29」(公開中)は、観客にすばらしい映画体験をさせる。奇妙な出来事や、普通ではない人たちと、たくさん出会っていくロードムービーなのだが、豊かな映像、不思議な出会いを楽しんでいるうちに、心が柔らかくときほぐされて、なんだか泣きたいような気持ちになる。やさしさと鋭さを併せ持つおとぎばなしに触れた時のように。(編集委員 恩田泰子)

 2022年の「こちらあみ子」で監督デビューした森井の第2作。ルート29とは、姫路から鳥取まで、山陽と山陰を縦につなぐ国道29号のこと。

 この映画は、綾瀬が演じる寡黙な主人公・のり子と、風変わりな女の子ハル(「こちらあみ子」主演の大沢一菜)による、国道29号の旅を描く。

 のり子は鳥取在住の清掃員。ハルは姫路で暮らす小学6年生。もともとは互いの存在さえ知らなかった。のり子は、仕事先の精神科病棟で出会ったハルの母親・理映子(市川実日子)の頼みを受けて、彼女のもとにハルを連れて行くことにしたのだ。

 清掃会社のワゴン車を盗んで姫路へ行き、ハルをさがし出し、また鳥取へ。すんなり行けば片道2時間半程度のはずなのだが、行く手にはたくさんの不思議が待っていて……。

 日常からおとぎばなしの世界へ。この映画は、するりと自然に観客を引き込んでいく。人の動き、カメラの動きがあやなす眼福の映像を冒頭から楽しませながら。

 奇妙な出来事がたくさんあるけれど、物語も登場人物もたんたんと進んでいく。ちょっととぼけた、えもいわれぬ愛嬌(あいきょう)はたっぷりあっても、余計な説明や感情表現はない。登場人物の核心に触れることだけを、夾雑物(きょうざつぶつ)をとりはらって純粋に描き出す。日頃は、もっともらしい言葉や理屈の下に覆い隠されてしまっている大切なものを発掘するかのように。

 トンネルを抜け、森へ入り、この世の者ともあの世の者ともつかぬ存在と出会いながら、ふたりは母親のもとを目指す。

 このふたりは、夾雑物だらけの日常の中にうずもれている純粋なものの象徴のような存在でもある。純粋であるがゆえに、そうでないものにフィットできない。変わり者とされて端っこのほうにいる。でも、ふたりが出会い、道の真ん中を歩き出した時、世界の彩度がちょっと上がる。

 このふたりの純粋さ、繊細さ、世界を見る目の確かさを信じられなければ、物語は成立しない。でも演じる俳優はふたりとも本当にすばらしい。

 ハルを演じる大沢は、飼いならされない自由さ、純粋さを持つ女の子の命の姿を「こちらあみ子」に続いて、鮮烈に、たまらなく魅力的に見せる。

 そして、綾瀬。この映画での彼女を見ると、希有(けう)な俳優だと改めて思う。純度の高い人物がこの世には存在するのだと信じさせる資質を、彼女は揺るぎなく保ち続け、役に生かしている。そしてその純粋さは、歳月を経て豊かな陰影をまといだしている。ちょっと、(もんめ)の高い絹布が描く光と影のドレープみたいな感じといおうか。

 ともあれ、この映画、ひとりではなくふたりの旅ということにも大きな意味を感じる。同じ夢を見る誰かがいることで人は救われる。そして、この映画は、その誰かが、その救いが、この世界には確実に存在するのだという光を見せる。映画という表現の力をもって。

 スクリーンに広がる奥深い映像世界、短いけれど心に響く純度の高い言葉。市川、そして伊佐山ひろ子、高良健吾、河井青葉、渡辺美佐子らが演じる忘れがたい登場人物たちとの出会い。Bialystocksによる音楽……。見逃してはならない映画だ。

 原作は、2022年に刊行された、中尾太一の詩集「ルート29、解放」。森井は、同作からインスピレーションを受けて、国道29号を1か月近く旅しながら、脚本を書いたという。

◇「ルート29」=2024年/日本/上映時間:120分/製作:東京テアトル、U-NEXT、ホリプロ、ハーベストフィルム、リトルモア/配給:東京テアトル、リトルモア

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