配属ガチャ不安を解消、最初の職場を確約の動き…内定辞退や早期離職を防ぐ狙い
読売新聞 / 2024年11月16日 15時0分
大手企業で、新入社員の最初の配属先を「確約」する動きが広がっている。職種や勤務地がどこになるか分からない「配属ガチャ」への不安を和らげ、内定辞退や早期の離職を防ぐのが狙いだ。ただ、学生側の希望をかなえるには、人事戦略の見直しが必要となるケースもあり、導入に
希望の職種を選んで面接
「皆さんの初期配属への思いや挑戦を応援します」。10月1日、東京・新宿の損害保険ジャパン本社で開かれた内定式。集まった約300人の内定者に向け、新たな人事制度が発表された。
同社が導入したのは、新入社員が希望の部署に応募できる「新卒ジョブ・チャレンジ制度」だ。営業や商品開発など約30の職種から希望を選び、書類や面接による選考を通れば、配属先が確約される仕組みだ。
応募しても希望が必ずかなうとは限らないが、人事部採用グループの天利友香さんは「自分の強みやスキルを生かせる制度。内定後に改めて自分のキャリアについて考えるきっかけになれば」と話す。内定式に参加した早稲田大4年生(22)は「望むキャリアを実現できるチャンス。応募してみたい」と活用に前向きだ。
住友商事も2025年入社の新卒採用から、内定時に入社後の配属先を確約する「WILL(意志)選考」を導入した。約30の部署から選んで応募でき、全体の採用数約100人のうち約3割が対象だ。採用担当者は「学生のキャリア観は多様化している。一人ひとりの意思を尊重したい」と話す。
人手不足で売り手市場
新入社員の配属先は入社後、本人の希望や適性を会社が判断して決めるのが一般的だ。しかし、入社前に配属先を確約する枠を設ける動きは各業界に広がる。背景には、企業が内定辞退や早期離職に悩まされている事情がある。
内定を複数得た東京都内の私立大4年の男子学生(22)は迷った末に、都内の中堅IT企業への就職を決めた。第1志望だった大手金融機関にも内定していたが、「全国転勤があり、希望部署に行けるか分からない」と辞退した。「仕事内容が確約され、家族や友人がいる東京で働ける会社を選んだ」という。
就職情報会社「マイナビ」の調査によると、学生の74・3%が「応募時に配属される職種が限定されていると応募意欲が高まる」と答えた。リクルート就職みらい研究所の調査でも「入社を決めるまでに配属先を明示してほしい」という学生が78・3%に達した。
同研究所の栗田貴祥所長は「やりたい仕事や勤務地の希望が明確な学生が多い。配属先が分からないという不確実性を嫌う傾向が強まっている」と分析する。
人手不足による学生優位の「売り手市場」も影響している。25年卒の大卒求人倍率は1・75倍と高水準で、内定辞退の経験がある学生は66・2%(10月時点)に上る。学生1人の採用には約100万円の経費が掛かるとの調査結果もあり、内定辞退は企業にとって大きな痛手となる。
栗田所長は「人手不足で若い人材は奪い合い。学生側の交渉力が高まっており、企業側には配属先を確約しないと優秀な学生を確保できないという危機感がある」と話す。
「適性わからないのに」
だが、多くの企業にとってこうした制度を導入することは容易ではない。
リクルートが企業の人事担当者に実施した調査では、「適性がよく分からない状況で配属先を決めるのは難しい」(情報通信業)、「人員配置の柔軟性が失われる」(建設業)などの声があがった。新入社員の配属について、企業の51・8%が「制度を見直す必要がある」と答えた反面、このうち50・4%が「見直しはできていない」と回答した。
ある大手メーカーの人事担当役員は「新入社員だけ配属先を確約するのは、現役社員から不満が出かねず、人事バランスも崩れる。導入するならば、会社の人事制度を抜本的に見直さなければならない」と話す。
人材獲得競争が激しくなる中、社員の希望と人事制度をどう両立させていくか。企業側も頭を悩ませている。
◆配属ガチャ=入社後に希望の部署や勤務地に配属されるか分からない不安な状況を、開けるまで中身が分からないカプセル玩具販売機「ガチャガチャ」になぞらえた就活用語。希望の部署に配属されないと「ガチャに外れた」と感じる新入社員も多く、内定辞退や早期離職の要因になっているとの指摘もある。
幅広い部署経験 将来の可能性に…学生の就活に詳しい文化放送キャリアパートナーズ就職情報研究所・平野恵子所長
「配属先を確約してくれる企業を選ぶ学生が増えているが、20代で様々な部署を経験し、幅広いスキルを身につけることも重要だ。それが将来の可能性や成長にもつながっていく。今はビジネスの変化が速く、希望した仕事に就いても、数年後に業務内容が大きく変わる可能性もある。配属ガチャを過度に恐れる必要はなく、挑戦を楽しむ気持ちで臨んでほしい」
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