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山梨県が「富士山登山鉄道」断念、ゴム製タイヤの「トラム」に変更へ…知事「電車とバスのいいとこ取り」

読売新聞 / 2024年11月19日 17時11分

富士山登山鉄道構想の断念と新案を公表する長崎知事(18日、県防災新館で)

 富士山の麓と5合目を結ぶ「富士山登山鉄道構想」について、山梨県は鉄道整備を断念すると発表した。大規模開発に地元などが強く反発していたことを受けた対応で、代替案としてゴム製タイヤで走る新交通システムの実用化を目指す。県側は反対派の懸念を解消する手法であることを強調したが、具体的な導入費用や安全性など不透明な要素も多く、関係者は今後の議論を注視する姿勢をみせている。

 「皆さまの鉄路への懸念を受け止め、ゴムタイヤで走る新交通システムに転換する」。長崎知事は18日の定例記者会見で、こう力を込めた。

 これまで県が検討していたのは、富士スバルライン上に軌道を敷設し、次世代型路面電車(LRT)を走らせるという構想だ。

 富士山の「オーバーツーリズム(観光公害)」対策を目的とした長崎知事の「肝いりの事業」で、県が2021年にLRTを軸とする案をまとめていた。総整備費は約1400億円で、県の中間報告書によると、6分間隔で運行し年間336万人を運ぶなどすることで、黒字になると見込んでいた。

 しかし、富士山周辺の大規模開発が必要になるため、地元・富士吉田市などが構想に強く反発。今年4月には堀内茂市長らを顧問とする「富士山登山鉄道に反対する会」が設立され、今月8日には約7万人分の反対署名が長崎知事に提出されるなど、県側との溝が深まっていた。

整備費大幅削減

 県が新たに示した案は、白線や磁気マーカーに誘導されて無人走行もできる車両「富士トラム(仮称)」を、LRTの代わりに走らせるというもの。鉄路の代わりに磁気マーカーなどを設置するために大がかりな開発が不要とされ、事業費の6~7割を占める軌道などの整備費を大幅に削減できるとしている。

 環境への影響軽減を目的に、燃料には水素を利用することを想定する。運行間隔や料金などは、LRT案で示した数字をベースに練り直し、将来的には、甲府市大津町にできるリニア中央新幹線の中間駅と富士北麓地域を結ぶ交通手段にすることも目指すという。

 県によると、この車両は中国企業が開発、同国内で実用化されているほか、マレーシアなどで実証実験も行われている。最高速度は時速70キロで、富士スバルラインの勾配や急カーブにも対応できる。県はすでにこの企業と連絡をとり、10月中旬には担当者がマレーシアでの実験を視察したといい、長崎知事は「大幅なコストダウンが実現できるのでは。電車とバスのいいとこ取りだ」とアピールした。

検証これから

 ただ、現時点での不安要素も少なくない。

 このシステムが日本国内で導入された事例はこれまでないといい、導入費用の具体的な試算や、安全性や環境面の検証はこれからの作業になっていく。

 また、県は運行の具体的な開始時期も明示できておらず、地元との合意形成も含めた協議は難航する可能性もある。

 新案公表を受け、富士吉田市の堀内市長はコメントを公表。「知事の英断に敬意を表したい」と一定の評価をしたものの、「まだ詳細がわからないが、改めて地元の声に耳を傾け、慎重に議論を進めてほしい」とけん制した。

 また、富士山登山鉄道に反対する会の上文司厚代表は「結果的に署名活動が功を奏したと思う」としたが、「『トラム』は鉄道よりはいいが、富士山の景観には合わない。鉄道でないからいいという話ではないので、今後も富士山の自然を壊さないようにということは訴えていきたい」と話した。

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