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「ゼレンスキー夫人が高級スポーツカー購入」…ロシア発の偽スクープ、米欧支援の妨げに

読売新聞 / 2024年11月19日 1時37分

キーウにある偽情報対策センター。24時間体制でSNSなどを監視している(8月21日)=関口寛人撮影

[生成AI考]第4部 混乱の先に<2>

 「ゼレンスキー大統領の妻オレナ夫人が6月にフランスを訪問した際、450万ユーロ(約7億円)の高級スポーツカーを購入した」――。ウクライナを巡る「スクープ」が米欧各国でSNSを通じ話題となった。

 オレナ夫人の名前や金額が記された「領収書」とされる画像も出回った。X(旧ツイッター)の投稿には、米欧に支援を求めるウクライナを念頭にコメントが添えられた。「ばかげている。ゼレンスキーにもう金を出すな!」

 「スクープ」を最初に報じたのはフランス語のニュースサイトだった。オレナ夫人に応対したディーラーの従業員と称する男が証言するインスタグラムの動画に基づいていた。露メディアがこぞって記事を引用し、米欧を拠点にする親露派インフルエンサーらが自らのSNSアカウントに転載したことで各国に拡散した。

 ウクライナ政府の偽情報対策センターは、すぐさまロシアが仕掛けた偽情報だとして注意を呼びかけた。センターによると、AI(人工知能)で作成した巧妙な偽動画「ディープフェイク」の可能性が高いことがわかった。領収書も偽物だった。発端となったニュースサイトは記事が掲載される9日前に開設されていた。

 ゼレンスキー夫妻が高額の買い物をしたという偽情報の拡散は米欧で繰り返し起きている。ウクライナが戦況を好転させるには、各国の支援が欠かせない。ロシアの狙いは、米欧で支援に批判的な世論を高め、支援を細らせてウクライナの苦境を深めることだ。

 センター所長のアンドリー・コバレンコ氏は、現地メディアを装って偽情報を流すサイトを「メディア・クローン」と呼び、こうしたサイトなどを使って「ロシアは米欧各国で偽情報のネットワークを構築している」と警鐘を鳴らした。記事自体がAIで作成されることも多いとされる。

 欧州連合(EU)が偽情報の監視・分析のために設置した「欧州デジタルメディア観測所(EDMO)」でファクトチェックを担当するトマゾ・カネッタ氏は、AI技術の進歩に懸念を示す。「近い将来、AIは真実と見分けがつかないようなコンテンツ(情報内容)を作れるようになる。誰もが自分の目を信じられなくなれば、社会全体にとって巨大な課題となる」

 ウクライナ国内でも、AIで作られた偽動画や偽画像がSNS上で出回っている。2月に陥落した東部の激戦地アウディーイウカを巡っては、ゼレンスキー氏が退却を命じる偽動画が話題になった。

 情報の事実確認を行うウクライナの民間団体「Nota.E.Nota」のアロナ・ロマニュク代表は「偽情報の内容は戦況や世論の関心に応じて日々変わり、拡散するケースも多い」と指摘する。ゼレンスキー氏の信頼を損ねたり、動員への不安をかき立てたりするほか、兵士や国民の戦意をそぐような情報が広がる。ロシアはウクライナ内部の結束に揺さぶりをかけることで、侵略を優位に進めようとしている。

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