1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 国際
  4. 国際総合

香港民主派指導者ら45人に禁錮4~10年…国安法違反判決、活動に決定的な打撃

読売新聞 / 2024年11月20日 6時53分

 【香港=鈴木隆弘】香港の高等法院(高裁)は19日、立法会(議会)選挙に先立ち民主派が2020年7月に行った予備選を巡り、国家安全維持法(国安法)違反に問われた45人に禁錮10年~4年2月の判決を言い渡した。国安法違反事件としては最大規模で、被告には民主派の主要人物も含まれ、活動が低迷する民主派に決定的な打撃となった。

 裁判では47人が起訴された。罪を認めなかった16人の審理が行われ、高裁は5月に14人を有罪、2人を無罪とした。罪を認めて審理を省かれていた31人とあわせて、この日は計45人への量刑が言い渡された。

 判決によると、被告らは立法会選で民主派の候補を絞り込む予備選を行い、過半数を得ることを目指した。その上で政府予算案を否決し、政府トップの行政長官を辞任に追い込もうとしたとして、「香港政府の法執行への重大な妨害、破壊だ」と認定し、国安法の国家政権転覆罪に当たるとした。

 予備選を企画した戴耀廷・香港大元准教授は「首謀者」とみなされ、最も重い禁錮10年の判決が下った。戴氏は14年に起きた道路占拠運動(雨傘運動)につながった街頭行動の発起人としても知られ、民主派の活動を理論面から支えてきた。

 被告の中には、立法会選に立候補を目指した民主党や公民党、社会民主連線など多くの民主派政党の関係者も含まれる。著名な若手民主活動家の黄之鋒氏も禁錮4年8月の判決を受けた。黄氏は民主派団体「香港衆志」(デモシスト、20年に解散)の幹部だった。

 国安法の施行で民主派の活動はすでに低調となっている。予備選を通じて変革を目指す場だった立法会も、選挙が延期された上に制度も親中派に有利な仕組みに変えられ、21年12月の選挙で民主派は一掃された。今回の判決によって民主派からは、「これまでもデモを行わず、何も話さないようにしてきたが、さらに慎重にならざるを得ない」(劉慧卿・民主党元主席)との声が上がる。

 裁判には多くの支援者が傍聴に訪れ、関心の高さを示した。最初から傍聴を続けてきたという女性(70)は「彼らは正しく、何も法を犯していない」と憤った。裁判を巡っては、これまで欧米各国から「通常の民主的な政治参加」との批判が上がっていた。香港メディアによると、この日も欧米各国の多くの外交官が裁判を傍聴した。

 鄧炳強・保安局長は判決後、「判決は事案の重大性を反映し、厳罰が必要だと示した。国家の安全を脅かす行為を容認しないメッセージを社会に伝えた」と強調し、民主派を抑え込む判決の正当性を主張した。

[Q]香港民主派とは…反中強まり抗議運動

 Q 香港の民主派とは。

 A 民主派は元々、中国の「一国二制度」を受け入れながら穏健な変革を試み、共産党の一党支配が続く中国本土や香港の民主化を目指していた。2014年に起きた香港行政長官選の民主化を求めた道路占拠運動(雨傘運動)の後、旧来の民主派に加え、反中意識の強い政党が生まれた。こうした流れもあり、19年に大規模な反政府抗議運動が起きた。

 Q 民主派が予備選を実施した経緯は。

 A 19年11月の区議会(地方議会)選で民主派が圧勝した。当時、選挙で民主派の得票率は約6割とされ、立法会選でも過半数を得るため、予備選で候補者を絞り込もうとした。予備選の候補者となり、国安法違反に問われた被告の中には、民主派もいれば、抗議運動から生まれた「抗争派」と呼ばれる人たちもいた。

 Q 予備選後の民主派の状況は。

 A 予備選の直前に施行された国安法によって、多くの民主活動家が海外に逃れ、香港にとどまった人たちも摘発されるか、口を閉ざさざるを得なくなった。民主派政党も立法会や区議会で議席がなく、影響力は乏しい。24年3月には国家安全条例が施行され、閉塞へいそく感が増し、政治離れも進み始めている。

「司法の中国化」象徴…立教大教授(香港政治)倉田徹氏

 民主主義国家では通常、野党が政府の予算案否決を目指す行為は罪に問われないが、この裁判では、それを国家政権転覆罪に問うた。判例を重視する英国式法体系のコモン・ローを採用する香港の司法が、中国のコントロールを受けるようになったことを示している。

 事件では、一斉摘発から判決が出るまで3年以上かかった。香港では逮捕後に保釈が認められるのが通例だったが、勾留が続いた人が多数いたことも、「司法の中国化」を象徴している。

 被告であり検察側の証人になった立法会の元議員はさほど量刑の軽減となっておらず、従来は情状酌量されたケースでも、国家安全にかかわる犯罪ではその対象となりにくいとみられる。中国政府から名指しで非難されてきた民主活動家の黄之鋒氏の量刑(4年8月)に、香港政府が満足しているかどうかは分からない。検察側は控訴する可能性が残っている。

 世論調査などによれば、民主的な価値観を支持する香港の人は今も相当数いるが、中国による統制が進んだ政治制度下で、民主派議員や政党は活動できなくなっている。民主派最大政党だった民主党は、議員が一人もいなくなった。党費収入も断たれ、もって数年のうちに資金が尽きるだろう。香港民主派には一切展望がない状況だ。(聞き手・国際部 吉岡みゆき)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください