世界最高峰のスケボー大会「SLS」、アイドルが人生を重ね「泣きそうになったこと」……清司麗菜の#skatelife
読売新聞 / 2024年11月24日 9時0分
NGT48の清司麗菜さんはスケートボードに打ち込むアイドル。スケートボード・ストリート世界最高峰のプロツアー「SLS」の東京大会を取材に訪れました。世界のトップスケーターを前に、彼女が感じたこととは――。「清司麗菜の#SkateLife~continuity180~」の第25回です。
世界最高峰のコース「やばい」
ストリートリーグ「SLS」の東京大会が23日、東京・有明アリーナであった。私も取材チームの一員として参加した。
会場に入って、コースを生で見て、テンションは上がりっぱなしだ。コースが難しいというのは、事前にニュースで知っていたけれど、一つ一つのセクションが大きくて、しかも、それぞれのセクションの距離が短い!
パッと見るだけでは分からないかもしれないけれど、スケーターから見ても明らかにハバレッジ(傾斜のついた平均台のようなセクション)が高く、とんでもなく長い。レールも他の大会と比べてずいぶん長い。スケートボードを始めてまだ3年。キックフリップ未習得の私でも分かる。このコースは、やばい。
推しスケーターが出場
SLSは全てのスケーターのあこがれの大会だ。それだけに選手のレベルはとんでもなく高い。前日の練習では、白井空良選手が「超むずかしいコース」と言っていたけれど、フタを開けてみれば、たった一日の調整でコースにしっかり合わせてきたようだった。これには、本当に驚いた。
一番のサプライズだったのは、私が「出場してほしい」と、この連載で紹介していた上村葵選手が、けがで欠場した海外の選手に代わって急きょ、代役で出場したこと。しかも決勝まで残ったということだ。予選で東京五輪金メダリストの西矢椛選手を上回ったのだから、本当にすごい。
予選終了後に話を聞いたら、「正式に招待されなくて悔しかった」と言っていたのが印象的だったな。彼女は昨年のSLSのスーパークラウン(年間王者決定戦)で4位に入った実力者。でも、いきなり呼ばれた舞台できちんと結果を残すのは本当にかっこよかったし、「スーパークラウンの時とは違って、自分の国で試合ができてうれしい」と語っていたのも素敵だった。
インタビューが終わってから「記事で書いてもらってうれしかった」なんてお礼まで言われて……。むしろ、お礼が言いたいのは私の方だ。
スケボーシーンのトップ
女子は、上村選手、赤間凛音選手、吉沢恋選手、ライッサ・レアウ選手(ブラジル)、クロエ・コベル選手(オーストラリア)、織田夢海選手が決勝を戦った。この顔ぶれを見ても、今のスケボーシーンのトップ選手ばかり。その中に「推し」スケーターの上村選手が一緒に戦うってだけでテンションは上がった。
決勝でも、コースの難しさが際立った。セクションが大きいから、技を長く維持しなくちゃいけない。だから、トリックの終わり方がうまくいっていない選手が多かった。そんな中、ライッサ選手、クロエ選手の2人はランをきちんと決めきっていて、対応力の高さを感じさせた。
優勝したのはライッサ選手。赤間選手が2位で、吉沢選手が3位だった。結果はともかく、選手の持ち味を前面に出したすばらしい決勝戦だった。
日本人の中では、赤間選手の安定感が抜群だった。彼女は、基礎的なトリック「オーリー」(スケボーに乗ってジャンプする技)の形がきれいで、私もインスタを画面録画して見ながら参考にしている。派手な技もかっこいいのだけれど、基礎をきちんと磨いているから、とにかく安心して試合を見ることができる。技の組み立てもすごく練られていて、彼女がずっと冷静に試合に臨めるのは、事前準備のたまものだと感じた。
シングルトリックの最後に見せたキラートリック「バーレーグラインド」を決めきったところも本当に見事だった。しっかりとした基礎、冷静な試合運び、そして最後に自分の得意な技を決めきる実力は圧巻だった。
吉沢選手は、「ビッグスピン・フリップボード」をシングルトリックで2本も決めた。最後のトリックは最後にショービット(ボードを後ろ足で地面にたたきつけて180度回転させ、空中でキャッチするトリック)を交ぜる「応用技」だ。これを決めて、会場は大歓声に沸いた。その瞬間、上村選手と抱き合っている姿を見て、勝敗に関係なくたたえ合う文化のすばらしさを感じた。
吉沢選手は試合後、「スケボーをやめたくなることもあるけれど、子どもたちには楽しく滑るところを見せたい」と語っていた。これを聞いた私はなんだか泣きそうな気持ちになった。自分もアイドルをやっていて、うまくいかなくて、辞めたいと思うこともある。アイドルでいる限りはファンの方を楽しませたいと思っている。そんな気持ちと吉沢選手の言葉を重ねてしまった。
上村選手は表彰台には上れなかったけれど、最後のシングルトリックでは、会場をあおって盛り上げていた。スケートボードが楽しいってことを、全身で表現する姿に感動したな。スケボーの素晴らしさは、技の難しさや得点だけじゃないってことを示してくれた。最後までかっこよかった。
堀米VS白井の熱すぎる戦い
男子の優勝は白井空良選手! 前日練習のインタビューで「堀米雄斗をけちょんけちょんにしてやる!」と意気込んでいた。もちろん、リップサービスなんだろうけど、試合では「本気だったんじゃないか」と思わせるほど、バチバチの戦いを見せてくれた。
堀米雄斗選手がリードを続ける中、最後のシングルトリックでは超大技を決めて、見事に頂点に立った。盤石の強さを見せる堀米選手に雪辱を果たした白井選手の活躍に思わず大声で叫んでしまった。白井選手のすべてをぶつけて戦う姿に本当に感動した。互いに高得点を続けた戦いは、パリ五輪とはまた違う、すばらしい戦いだったと思う。
堀米選手は、最後まで一番高いバンクからのハバレッジを攻めつづけたところにレジェンドとしてのプライドを感じた。最後のシングルトリックを決めていれば優勝だったと思うけれど、そうはならなかった。だけど、最後まで戦い続ける姿がすごくかっこよかった。
堀米と白井選手がハグをしているところも鳥肌ものだ。個人戦なのに、チームで戦っているような雰囲気がスケートボードの会場でしか味わえない世界だ。歴史的な瞬間に立ち会えて、本当に光栄だった。
全部、スケートボードのおかげ
実は、今回の取材は不安なことばかりだった。NGT48としての仕事は、私のことを知っている人に向けてのものが多い。だけれど、今回はフジテレビさんのお仕事をいただいたり、SLSというスケーターの最高の舞台を取材したりするということで、正直にいうと「あなた誰?」と言われることが怖いなって、心配だった。
ところが、取材の合間に会場で、何人ものお客さんに「応援しています」と声をかけてもらえた。しかも、スケートボードをやっていない人からも。吉沢選手が言っていたように、苦しいこともたくさんあるけれど、続けてきてよかったと思う。
今回確信したのは、スケートボードが私の人生の一部になっているということだ。アイドルでスケーターって、今なら胸を張って言える。そして、少しでもスケートボード界を盛り上げられているんだって自信が持てた。初めて、私は自分をほめたくなった。全部、スケートボードのおかげだ。
プロフィル
清司麗菜(せいじ・れいな)
NGT48の1期生。埼玉県出身。「バイトAKB」として2014年にアイドルのキャリアをスタートさせ、2016年にNGT48に加入。全国スケートボード施設連絡協議会アンバサダー。趣味はスケボーのほか、歌うこと、筋トレ。Instagramは「@reinaseiji」、X(旧Twitter)は「@official_seiji」。
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