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京町家の軒先、持ち込んだ本を交換できる「本箱」から生まれる交流…「地域の財産に」京都の学生の願い

読売新聞 / 2024年11月25日 9時15分

いろり文庫を営む古鞘さん(左)と中島さん(左京区で)

 京大吉田キャンパス(京都市左京区)の東側、南北に延びる通りを行くと、1軒の京町家の軒先に、両手で抱えるほどの大きさの透明な箱が置いてある。「星の王子さま」(サンテグジュペリ著)、「働くということ」(ロナルド・ドーア著)、「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」(大前粟生著)――。地域住民らが持ち寄った本が並ぶ、「いろり文庫」だ。(東大貴)

 軒先の箱は、5月に登場した。利用したい人は、自分の本を1冊持ち込めば、箱に並んだ1冊と交換できる。交換せずに、自分が読まなくなった本を寄付することも可能だ。

 いろり文庫の店主は、早稲田大文化構想学部4年の中島伸さん(22)と、京都女子大文学部4年の古鞘歩花さん(23)。中島さんは入学時から新型コロナ禍でオンラインでの授業が増えたこともあり、東京ではなく京都に住んで、芸術哲学について学んでいる。古鞘さんは幼い頃から読書好きで、書店でアルバイトをしている。

 2人とも、様々な大学から学生が集うサークル「京大短歌会」に所属。2人はある時、サークルの会員誌を中島さんの住む京町家の軒先に並べてみた。すると住民や通行人らが興味深げに会員誌を手に取り、そこから文学談議に花が咲いた。本を通じて人々の輪が浮かんでは消え、また浮かぶ、心地の良い<よどみ>のような空間だと2人は感じた。

 本で人々がつながる場所を作ろう。いつでも立ち寄れるよう、365日、24時間、本を置くことに決めた。

 じっくり読み、選べるように椅子を置く。一部の本は「秘本」と名付けて全面をカバーで覆い、選書担当の古鞘さんが紹介文を書いた。

 設置から半年ほどがたった今、学生や観光客、買い物途中の主婦ら、様々な人が本を目当てに文庫に立ち寄る。訪れた人と好きな作家の話題で盛り上がることもしばしばだ。「かつて人々がいろりを囲んだように、本を通じて人と人とがつながる場所になってほしい」との思いが、形になってきたと2人は感じている。

 うれしい反面、全国的な読書人口の減少が気がかりだ。古鞘さんは書店バイトの経験から、若者の読書離れや街の書店の減少を肌で感じており、それだけに「手軽に立ち寄れるこの場所で、読書の楽しさを知る人が増えてほしい」と願う。中島さんは、SNSなどを通じて特定の分野に関心が偏りがちな現状を危惧し、「自分が気づいていない興味を知るきっかけに」と話す。

 「本が地域の財産となる」ことが2人の願い。来春はともに京都市内の大学院に進学予定で、「地域に根ざした書店のあり方を探りたい」と、文庫からの発展をさらに考えていきたいという。

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