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ダブル被災の能登、文化財を守り続けてきた男性「億単位で個人で払える額では…」復旧費は個人負担

読売新聞 / 2024年11月28日 17時0分

震災で崩れ、豪雨で土砂も流れ込んだ上時国家住宅主屋(9月27日)=輪島市提供

 能登半島地震で被災した文化財の復旧がなかなか進まない。民間が所有する物件が多く、個人に復旧費の負担が重くのしかかる上に、9月の能登豪雨で被害が一層深刻になったためだ。震災からまもなく11か月。文化庁は、所有者の負担を軽減させて復旧が少しでも進むよう、新たに復旧補助費の上乗せの検討を始めた。(デジタル編集部 石原宗明)

■復旧にかかる費用は1億円以上

 「元の姿に戻すことは諦めなければならないかもしれない」。国重要文化財「上時国家(かみときくにけ)住宅」(石川県輪島市)を所有する時国健太郎さん(74)(金沢市)は、裏山から流れ込んだ土砂で埋まった住宅を見て、そうため息をついた。

 この住宅は、壇ノ浦の戦いの後に能登に流された平時忠の子孫とされる「上時国家」が1857年頃までに建てた家だという。豪壮な入母屋造(いりもやづくり)の主屋など3棟が国重文、庭園も国名勝に指定され、奥能登地域の観光スポットの一つだった。

 元日の震災で、3棟のうち、主屋と米蔵が損壊。前年12月の大雪で庭の木が倒れた被害もあり、解体修理など住宅全体の復旧費は約40億円と見積もられている。国から最大85%の復旧補助費などもあるが、時国さんの負担は1億円以上になる見込みだという。

■先祖の遺産伝えたいが…

 追い打ちをかけるように、9月の豪雨で、庭園に土砂が流れ込み、部分修理で済むはずだった納屋の解体も検討しなければならない事態となった。土砂の除去作業は進まず、住宅内では、2万点以上の古文書が埋もれたままだ。復旧費はさらにかかるとみられている。

 上時国家25代当主にあたる時国さんは、今はこの家に住んではいないが、正月には親族でこの家に集まるのが恒例行事だった。「先祖が守り続けてきた遺産を後世にも伝えたいが、負担する復旧費はとても個人で払える金額ではない。復旧したとしても、元の材料を使えるか分からず、指定が取り消されるのではないかと危惧している」と話す。一刻も早い復興を望むが、「所得にあわせた負担に変えることを検討してほしい」と訴える。

■「1歩進んで5歩下がった状態」

 1004枚の棚田が傾斜地に並ぶ国名勝「白米(しろよね)の千枚田」(輪島市)も9月の豪雨で山の上部から岩や倒木などが流れ込み、用水を埋め、棚田の一部を崩した。

 震災では、ほぼ全ての棚田で崩落や亀裂があり、クラウドファンディングで1855万円を集めながら復旧作業を実施。9月上旬には、120枚で収穫が行われたところだった。

 白米千枚田愛耕会代表の白尾友一さん(61)は「1歩進んで5歩下がった状態。降雪が始まる前にできるだけ復旧を進めたいが、重機を入れられず倒木などの除去作業ができないでいる」と話した。

■国、自治体で支援体制強化

 文化庁によると、1月の能登半島地震では、10府県で427件(7月29日現在)の文化財が被災した。被害の約半数が民間所有とみられるといい、9月の豪雨で、奥能登地域を中心に被害が広がった。現在は、各自治体と連携して状況把握を進めている。

 文化財の破棄や散逸を防ぐ応急措置として、文化庁は、国の専門機関「文化財防災センター」と連携し、被災した建物から古文書などを取り出して保存する「文化財レスキュー」事業などを実施。10月末現在、想定していた出動要請の1・25倍の253件の依頼がある。ただ、派遣できる専門家の数に限りがある上、劣化を防ぐために冷凍保存した古文書などの保管先の調整に時間がかかり、対応できたのは半数の133件のみ。同庁は事業費を増額し、支援を継続する。

 また、能登半島地震に続き、能登豪雨も激甚災害に指定されたことを受けて、最大85%の復旧補助費に加え、補助額の引き上げの検討を始めている。同庁の担当者は「激甚災害が重なることはなかなかない。民間所有者を救っていく必要がある」としている。

■専門家「所有者任せでいいのか」

 各自治体も震災後、国からの復興基金を活用し、文化財の復旧に対して独自の上乗せを実施。石川県では未指定の文化財の所有者に対しても、負担額の半分を補助することにしている。同県教育委員会文化財課は「文化財は、能登の魅力・誇りである文化や歴史を継承していくために必要な県民共通の財産」と支援の意義を示した上で、豪雨後の追加の支援については「検討している」とした。

 各地の歴史遺産に詳しい名古屋市立大の千田嘉博教授(城郭考古学)は「今回の一連の災害は、文化財の維持・管理が民間所有者に委ねられていることを明らかにした。歴史遺産は、地域の伝統を知り、観光を通じた復興の拠点になる。国や地域の財産をどう残していくのか――。所有者任せにせず、社会全体で考えていく必要がある」と指摘する。

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