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「103万円の壁」撤廃されたら学生の7割「もっと働きたい!」...学生には吉か?凶か?/マイナビ・宮本祥太さん

J-CASTニュース / 2024年11月27日 20時24分

「103万円の壁」撤廃されたら学生の7割「もっと働きたい!」...学生には吉か?凶か?/マイナビ・宮本祥太さん

客にデザートを出すアルバイト学生(写真はイメージ)

2024年末の決着を目指し、「年収103万円の壁」の議論が加速している。103万円の壁の影響を一番うけているのはアルバイト学生だ。

そんななか、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年11月21日に発表した「大学生アルバイトの『年収の壁』に関する調査」によると、年収の壁が撤廃されたら7割のアルバイト学生が「もっと働きたい」と希望しているという。

どんどんアルバイトに精を出して、学業との両立はどうなるのか。マイナビの研究員宮本祥太さんに話を聞いた。

バイト学生の4割「103万円の壁」を意識して就業調整

読売新聞(2024年11月27日付)などの報道によると、政府与党は、アルバイト学生らが年収103万円を超えると親の扶養から外れる仕組みを見直し、「特定扶養控除」の年収要件を引き上げる方向で調整に入ったという。

特定扶養控除は19~22歳の学生が対象。子どもの年収が103万円以下の場合に親の所得から63万円が控除されるが、扶養から外れると適用されなくなるため、アルバイト学生の働き控えにつながっていると指摘されてきた。

マイナビの調査(2024年2月15日~19日)は、アルバイトをしている10代~70代男女9000人が対象。そのうち大学生に、年収の壁を意識した就業調整をしているかを聞くと、約4割(40.4%)が調整をしていた。

就業調整のラインは、「103万円の壁」が約7割(68.0%)と最も多い。次に多いのが、自分の住民税の非課税限度額を超えないようにする「100万円の壁」(39.7%)だった【図表1】。

就業調整をしている学生に、「年収の壁がなくなり、一定の年収を超えて働いても手取りが減らなくなる場合、もっと働きたいか」と聞くと、7割以上(72.1%)が「働きたい」と答えた【図表2】。

また、「経済的ゆとりがあるか」を聞くと、約半数(49.2%)が「ゆとりがない」と答えている【図表3】。こうした結果からも、学生が「103万円の壁」のために働き控えを行い、経済的な余裕がないとする人が多い現実がうかがえる。

さて、学生はいくら稼いでいるのか。【図表4】を見ると、「現在の年収」は「90万円~102万円」(28.8%)が最も多く、「103万円以上」は4.9%にとどまっており、「103万円の壁」を意識して就業調整している傾向がうかがえる。

一方、「希望の年収」を聞くと、「103万円以上」(19.1%)が5人に1人という結果に。かりに「103万円の壁」がなくなったら「希望の年収」はどれだけ上がるだろうか。

「経済的ゆとりがない学生」=「学資や生活に困っている」わけではない

J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめたマイナビのキャリアラボ研究員宮本祥太さんに話を聞いた。

――私はかなり多くの学生が、「年収の壁」を意識して働いていることに驚いています。「103万円の壁」どころか「106万円の壁」「130万円の壁」を意識して働いている人が合計2割もいます。それほど今の学生は、学資や生活に困っており、経済的ゆとりがない人が多いということなのでしょうか。どんな理由がありますか。

宮本祥太さん 年収103万円を超えると、自身の収入だけでなく、親などの扶養者の収入にも影響が出てきます。多くの学生が年収の壁を意識する理由としては、親から「103万円を超えないように」と伝えられ、言いつけに従って就業調整をしているケースもあると想像します。

また、学生の支出はさまざまです。授業料や家賃・光熱費が含まれることもあれば、食費や日用品、交際費、就職活動、留学のための貯金......と、いろいろ想定されます。親元から通学しているか、仕送りを受けているか、奨学金などによっても必要な収入額は異なります。

そのため、全員が「経済的ゆとりがない」=「学資や生活に困っている」というわけではなく、学業に影響が出るほどゆとりがない人もいれば、贅沢や不要な出費は控えるけれど、食費や交際費などにはそれなりの額を使いたいという人もいると考えます。

年収の壁を引き上げると、学業・バイト・暮らしのバランス調整が難しくなる

――それにしても、アルバイト学生が多いことが気になります。年収90万円以上を希望する学生が3割以上います。現在、日本学生支援機構から奨学金を支給される学生は約半数ですが、奨学金だけでは足りないのでしょうか。学業に影響しないかと心配です。

宮本祥太さん マイナビの「2025年卒大学生のライフスタイル調査」では、物価高によって生活に受けた影響として、「食費が上がった」「学食・生協の値段が上がった」「水道光熱費が上がった」と訴える学生が多くいます。

特に1人暮らしの学生では6割以上が「食費の値上げ」を一番に挙げており、暮らしに必要なお金が増えている様子がうかがえます。

また、調査では8割以上が「定期的なアルバイトをしている」と答えており、学生にとってアルバイトは不可欠な状態になっています。このことから、年収の壁と物価高の影響で、これまで以上に学業・アルバイト・暮らしのバランスの調整が難しくなっていると考えられます。

――政府与党が、「103万円の壁」の引き上げに取り組み始めましたが、学生のアルバイト生活にどんな影響を与えると思いますか。

宮本祥太さん 今回の調査でも、年収の壁がなくなった場合、「もっと働きたい」と答えた学生は7割を超えています。現在でも103万円以上の年収を希望する人が2割近くいますから、収入をもっと増やしたいという潜在的なニーズがうかがえます。

年収の壁の引き上げによって、学生がアルバイトに費やす時間がさらに増えることも考えられます。そうなると、逆にこれまで以上に学業・アルバイト・暮らしのバランスの調整が難しくなっていくかもしれません。

学生の本業は学業。バイトと本気で向き合い、学生生活を充実させてほしい

――なるほど。学生にとってよいことなのか、悪いことなのか、微妙ですね。アルバイト学生に対するアドバイスやエールはありますか。

宮本祥太さん 先に述べた「2025年卒大学生のライフスタイル調査」では、「あなたにとって、アルバイト先はどのような場所か」と聞きました。すると、「単に収入を得るための仕事場」という答えが最も多かったですが、それに続き、「仕事や仲間との時間を楽しむ場所」「社会人の練習の場所」という回答も目立ちました。

アルバイトで働くことが、収入源以外にも大事な社会経験やコミュニティーの場として機能していることがうかがえます。学生にとって生活を支える1つの活動になっていますが、その活動が年収の壁によって制限されることは望ましいことではありません。制限によって経済的なゆとりのなさにつながっているのであればなおさらです。

――では、学業との両立はどうしたらよいと思いますか。

宮本祥太さん 学生の本業はあくまで学業です。そのため学業や暮らしとのバランスをこれまで以上に十分鑑みながら、アルバイトと本気で向き合い、学生生活を充実させることにつなげてほしいと願っています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
宮本祥太(みやもと・しょうた)
マイナビ キャリアリサーチラボ研究員

中途採用領域などを担当。新聞記者を経てマイナビに中途入社。『マイナビ転職』の制作ディレクターとして300社以上の中途採用支援に携わる傍ら、キャリアコンサルタントとして若年層を中心に100名以上の転職相談に対応。
関心のあるテーマは求職者・企業双方の視点から見たジョブマッチング。国家資格キャリアコンサルタント。

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