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幕末に天然痘ワクチンを普及させた医師、笠原良策の苦難を描いた映画が来年1月公開

読売新聞 / 2024年11月29日 14時8分

 幕末の福井の医師、笠原良策が注目を集めている。死病と恐れられた天然痘から人々を救うため、命がけで京都から痘苗(ワクチン)を持ち帰り、種痘(予防接種)を普及させた先覚者だ。福井市内では企画展などが相次ぎ、数々の苦難を描いた映画「雪の花 ―ともに在りて―」は来年1月24日から全国公開される。コロナ禍を経た今、感染症との闘いの歴史を改めて教えてくれる。(辰巳昌宏)

■「牛痘」を入手

 「予防という概念がない時代、福井の人に種痘が安全なことを実感させた。画期的な事業だった」。市立郷土歴史博物館の山田裕輝学芸員(39)は良策の業績をこう評する。

 良策は1809年に現在の福井市深見町で生まれた。福井城下で開業後、京都で医学を学んでいた45年、英国のエドワード・ジェンナーが開発した牛痘(ウシがかかる天然痘)の治療法が天然痘の予防にも有効だと知る。これがメスのような器具で腕に傷をつけ、うみを埋め込む種痘だった。

 福井藩を通して幕府へ牛痘痘苗の輸入許可を嘆願。京都で入手し、まずそこで種痘を普及させた。

■福井に持ち帰る

 時間がたつと効き目がなくなる痘苗を、どう生きたまま福井に持ち込むか――。良策の日記「戦兢録せんきょうろく」によると、49年冬、子ども2人に接種して京都を出発。福井から連れてきた子ども2人に途中で植え継ぎ、滋賀県境のとちノ木峠(539メートル)を越えた。

 だが、2メートルを超える積雪、吹雪が行く手を阻み、あわや遭難という時、村人に助けられる。福井まで7日間の行程だった。

 映画の原作となった吉村昭さんの小説「雪の花」は、難所越えの良策の心中を次のように描く。

 <激しい疲労で、眼がかすんできた。手足の感覚も失われ、眠気がおそってくる。死んではならぬ、種痘をした幼児をなんとしてでも福井へ連れ帰るのだ、とかれは胸の中で叫びつづけた>

 良策らはさっそく自宅の隣に仮種痘所を開設した。しかし、藩役人からは「西洋の妖術」と批判され、種痘をすると牛になるというデマも流れたため、予防接種は広まらなかった。怪しげな情報や、ぬぐいがたい不安が広がる状況はコロナ禍でも見られた。

■庶民に意義説く

 それでも良策は諦めなかった。50年に「牛痘問答」を出版。ふりがなをつけ、庶民向けに種痘の意義を説いた。著作の添削には福井の歌人、橘曙覧あけみが関わったという。「この下云々うんぬんはもとのままにておきつ」。曙覧書簡集にはこうした記述が残る。2人は共に国学を学んだ仲間でもあった。

 実は、曙覧は三女を天然痘で亡くしている。福井市橘曙覧記念文学館の内田好美学芸員(46)は「曙覧の悲しみは深かった。それだけに種痘を広める良策の活動を応援したい思いがあったのでしょう」と話す。

 種痘は金沢、富山にも普及する。良策は患者のカルテのようなものを作り、複数回の接種をするなど計画的に種痘に取り組んだ。51年に藩公認の種痘所「除痘館」が設けられ、4年後、現在の福井春山合同庁舎付近に移転。現在は良策の功績をたたえる案内板が立つ。

■福井県内ロケ地に

 市橘曙覧記念文学館で今月21日、良策と曙覧の関係を紹介する企画展が始まった。同市の県ふるさと文学館では、小説「雪の花」を含む吉村さんの著作や自筆原稿、パネルを展示中だ。市立郷土歴史博物館も映画の公開を記念し、来年1月24日から良策が所有していたカメラなどの展示を予定している。

 映画には、良策役の松坂桃李さんや芳根京子さん、役所広司さんが出演する。昨年、武家屋敷旧内山家(福井県大野市)や養浩館庭園(福井市)など各地で撮影され、県内の約100人がエキストラなどで出演したという。

 今月18日に福井市内で行われた試写会であいさつした小泉堯史たかし監督は「歴史とは思い出すこと。真っ白な気持ちで見ていただき、笠原像がみなさんの心の中に染み込めばいい」と語った。

◆天然痘疱瘡ほうそうとも呼ぶ。感染力がすさまじく、幕末には毎年のように流行。福井藩が「小児過半死す」と記録するほど死亡率が高く、軽症でも顔や体に吹き出物(あばた)が残った。種痘の普及で患者は減少し、世界保健機関(WHO)は1980年、根絶を宣言した。

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