中国、南鳥島沖で「マンガン団塊」大規模採鉱を計画…商業開発認められればレアメタル独占の可能性
読売新聞 / 2024年12月1日 5時0分
中国の国有企業が来年夏以降、小笠原諸島・南鳥島(東京都)沖を含む太平洋の公海2か所で、レアメタル(希少金属)を含む鉱物「マンガン団塊」を最大7500トン採鉱する大規模な試験を計画していることがわかった。水深5000メートル超の深海底で商業規模に近い採鉱を行うには高い技術が必要で、世界初とみられる。商業開発が認められれば、希少金属の国際サプライチェーン(供給網)を中国に独占される可能性がある。
公海の海底鉱物は国連海洋法条約で人類共同の財産とされ、国際海底機構(ISA、本部ジャマイカ)が管理する。現時点で国際ルールがなく商業開発は出来ないが、一定の技術を持つ国や企業に、開発の準備段階として特定海域を独占探査できる権利を与えている。
採鉱試験を実施するのは、日本の排他的経済水域(EEZ)に近い南鳥島沖で権利を持つ中国国有企業「北京先駆技術開発公司」で、同社がISAに提出した計画書によると、来年8月頃、同島南方約600キロ・メートルの独占探査海域で20日間行う。
母船から専用装置をつり下げ、約25万平方メートルの海底に転がるマンガン団塊を吸引。引き揚げずに海底で最大7500トンを集める。採鉱が生態系に与える影響も調べる。
一方、別の国有企業「中国五鉱集団公司」の計画では、米ハワイ沖の公海で7~10月、マンガン団塊約1300トンを海底で集め、そのうち数トンを引き揚げる。
ISAは、来年夏の総会で鉱物を引き揚げて商取引するための国際ルール策定を目指している。商取引が解禁されれば、技術を蓄積した中国勢が大量採鉱に乗り出し、国際市場で優位に立つ可能性がある。
希少金属は電気自動車の電池やハイテク製品の生産に必須で、各国の獲得競争が激しい。ただ、日本は採鉱や引き揚げの技術で中国や欧米に後れを取っている。
EEZ内の海底資源は開発権が認められているため、政府は今年4月に策定した国家戦略で、南鳥島周辺で2028年度以降に希少金属の一部「レアアース」の商業開発を実現する目標を掲げた。ただ、海洋研究開発機構などが同島周辺で計画するのは小規模な試験で、早くても26年になる。
東京大学の加藤泰浩教授(地球資源学)は「今回の大規模試験に成功すれば、中国の採鉱技術は世界トップレベルになる。中国に供給網を支配されないよう、日本はEEZ内に資源を持つ優位性を生かして開発を急ぐべきだ」と訴える。
採鉱から製錬まで戦略的に技術向上を
中国が日本の排他的経済水域(EEZ)に近い海底で、レアメタル(希少金属)資源の大規模な採鉱試験をすることが明らかになった。商業開発の国際ルールが整備されることを見据えた中国の動きに日本も遅れないよう、技術開発の強化などで対応を急ぐ必要がある。
国際ルール策定には、生態系への悪影響を懸念する一部の国から根強い反対意見がある。ただ、環境に配慮した採鉱技術が実現すれば、商業開発を容認する議論が加速する可能性もある。
日本は南鳥島周辺のEEZ内に、国内消費量75年分以上のコバルトを含むマンガン団塊など、開発可能な膨大な資源を持つ。だが、日本は優位性を十分生かせていない。資源を引き揚げるのは難易度が高く多大なコストもかかるため、日本の採鉱技術は遅れている。
一方、「海洋強国」を掲げる中国は、2016年に深海開発に関する国内法を整備するなど国を挙げて技術を蓄積。陸上でも希少な鉱物資源の寡占化を進めており、希少金属の国際供給網を支配する意図も読み取れる。
日本は、公海での商業開発が「解禁」されることに備え、採鉱から製錬まで商業開発に必要な技術を戦略的に磨き、これ以上の後れを取らないようにすべきだ。(科学部 笹本貴子)
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