韓国「非常戒厳」で国防相と大統領府の首席秘書官が辞意…野党は大統領の弾劾訴追案を国会に提出

４日午前１１時１４分、ソウルの国会で尹大統領を批判するシュプレヒコールをあげる市民ら

　【ソウル＝小池和樹】韓国の尹錫悦（ユンソンニョル）大統領は４日午前４時半頃、前夜に宣布していた戒厳令の一種「非常戒厳」を解除した。国会で、解除要求決議案が可決されたことを受けたものだ。政党活動が禁止され、報道機関の活動などが制限される事態は６時間後に収束した。野党６党は、尹氏の弾劾（だんがい）訴追案を国会に提出した。日韓関係の改善を進めてきた尹政権が存続できるかどうか重大な局面を迎えた。

　聯合ニュースによると非常戒厳の宣布は１９７９年以来、４５年ぶり。国会には一時戒厳軍が進入するなど緊迫したが、戒厳令の解除に伴い軍の部隊は撤収し、混乱の拡大は回避された。

　尹大統領に戒厳令宣布を建議した金龍顕（キムヨンヒョン）国防相は４日、「全ての責任を取る」として尹氏に辞意を伝えた。大統領府の首席秘書官らも４日、一斉に辞意を表明した。混乱の責任を取ったとみられる。

　しかし、左派系最大野党「共に民主党」は「憲政破壊犯罪を座視しない。重大な内乱行為だ」と非難し、尹氏に大統領辞職を求めた。野党６党の１９１議員が発議した尹氏の弾劾訴追案は６日か７日に採決する見通しだ。

　尹氏は３日夜に国民向けの緊急談話を出し、国会で過半数を握る最大野党「共に民主党」などが政府高官や検事らの弾劾訴追案提出を繰り返し、治安に関する内容を含めた予算案の削減を求めているとし「憲政秩序を踏みにじる明白な反国家行為だ。国会が自由民主主義体制を崩壊させる怪物になった」と主張した。戒厳令の目的は「北朝鮮に従う勢力を撲滅し、憲政秩序を守る」ことだと説明した。

　行政・司法の全てを管轄することになった戒厳司令官はその後、「布告令」を発出し、議会や政党など一切の政治活動の禁止、すべての報道と出版の統制、集会行為の禁止といった措置が示された。違反者に対しては令状なしに逮捕、拘禁、押収捜索ができ、処罰するとした。国会前で反対する市民らが抗議の声を上げた。

　国会では４日午前１時頃、出席議員１９０人全員の賛成で戒厳解除要求決議案が可決された。憲法の規定では、国会の在籍議員の過半数が解除に賛成した場合、大統領は戒厳令を解除しなければならないと定めており、尹氏は宣布の約６時間後の同日午前４時半頃、解除を表明した。ソウル市内に展開した戒厳軍も、解除に伴って元の部隊に復帰した。

　尹氏は戒厳令の解除表明の際、国会に対して「国の機能をまひさせる非道な行為は直ちに中止するよう要請する」と改めて求めたが、尹氏に対する批判は与党や支持層からも相次いだ。尹政権を支える保守系与党「国民の力」の韓東勲（ハンドンフン）代表は尹氏の戒厳令宣布の直後、「宣布は間違っている。国民とともに阻止する」と反対を明言した。

韓国の戒厳令は「非常」と「警備」の２種類

Ｑ　戒厳令とは何か。

　Ａ　戦時や非常事態に宣布され、行政や司法権などを軍の統制下に移し、秩序の回復を図る。韓国憲法第７７条は大統領が宣布すると定めている。「非常戒厳」と「警備戒厳」の２種類があり、尹錫悦大統領は軍の統制がより広範囲に及ぶ非常戒厳を宣布した。

　国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳令の解除を要求すれば、大統領は解除しなければならない。

　日本国憲法に戒厳令の規定はない。

　Ｑ　韓国の過去の戒厳令は。

　Ａ　１９４８年の建国以来、計１６回宣布され、そのうち１２回が非常戒厳だった。７９年１０月に当時の朴正熙（パクチョンヒ）大統領が側近に暗殺された後、非常戒厳が宣布され、８０年５月に範囲が全国に拡大された。各地で反発するデモが起き、民主化を求める市民を軍が弾圧した「光州事件」につながった。その後は戒厳令が宣布されたことがなかった。

　Ｑ　宣布後はどうなる。

　Ａ　戒厳司令部は３日夜、国会や政党の活動、デモなどの政治活動を禁止し、すべての報道や出版は戒厳司令部の統制を受けると発表した。違反者に対しては令状なしで逮捕できるとした。戒厳令が長期化すれば、外国メディアの取材活動が制限された可能性もある。

　Ｑ　尹大統領の宣布手続きに問題はなかったか。

　Ａ　韓国メディアによれば、３日夜の戒厳令宣布に先立ち、尹氏は国務会議（閣議）を招集し、審議した。細則について定めた戒厳法の規定に基づくものだ。

　同法は、大統領は宣布後、遅滞なく国会に通告するよう定めている。一部の韓国メディアは、尹氏が通告しないまま国会に軍を投入したと伝えている。