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開業100年の熊本市電、ドア閉めず走行や脱線などトラブル続き…運転士の非正規化で教育不十分

読売新聞 / 2024年12月8日 11時25分

 今年開業100年を迎えた熊本市電が揺れている。ドアが開いたままでの走行や脱線などが相次ぎ、今年に入って、トラブルは重大インシデントに認定された3件を含む14件に上る。熊本には台湾積体電路製造(TSMC)が進出し、街が大きく変わろうとする中、市民や観光客の足として親しまれてきた市電を巡り抜本的な対策が急務となっている。(石原圭介、中尾健)

重大インシデント3件

 「安全を守るためには、やむを得ない」――。熊本市の大西一史市長は11月22日、来年4月以降に予定していた市出資の一般財団法人が運行し、線路などの保有を市が担う「上下分離方式」への移行を延期する方針を明らかにした。

 市電を巡っては、今年1月以降、ドアを開けたままの90メートル走行や脱線状態での5メートル進行、そのほか、運転士が誤った軌道に進入したり、赤信号を見落としたりする事案が続発した。市は対策を講じるため、5月に検証委員会を設置。国土交通省九州運輸局は9月、市交通局に、運転士の教育や安全管理体制に問題があったとする改善指示を出した。

 しかし、11月にも赤信号などで交差点に進入する事案が2件続き、今年のトラブルは14件。同省運輸安全委員会が今年認定した全国の鉄道を巡る重大インシデントは6日現在5件だが、うち同市電の事案が3件を占める。

人員1割減

 検証委で要因の一つに挙げられているのが、運転士が非正規職員ばかりとなっている組織体制だ。市は経営健全化を優先し、2004年度以降、正規職員の新規採用を取りやめ、非正規で補う方針に転換した。運転士の入れ替わりは激しく、昨年4月の86人から今年4月には約1割減となる75人になった。同局の担当者は「運行に関する体系的な教育ができていなかった」と語る。利用者の女性(67)は「免許も返納して移動には欠かせないので、安全を一番に考えてほしい」と話した。

 市電は、TSMCの熊本工場の進出などで深刻化する渋滞の緩和に向けた役割も期待されるが、人員不足などにより、運行ダイヤは減便傾向が続き、市は6月から運行本数を15%ほど削減した。こうした影響を受け、朝の通勤・通学時間帯には、待っている乗客が車両に乗り切れない問題が頻発し、軌道上に乗客があふれる問題も起きた。ただ、市は11月に導入した大型の新型車両で問題解消が進んでいるとみており、効果を検証する方針だ。

 検証委員会会長の吉田道雄熊本大名誉教授は取材に対し、「長期的な観点で安全教育や意識改革が必要」と指摘する。検証委は最終報告書を年内にまとめ、市側は報告書の内容を踏まえて、上下分離の導入に向けた計画を再検討する方針。

ほかでも…

 路面電車を巡っては他の地域でもトラブルは相次いでいる。

 長崎市では22年7月、運転士が停止信号の確認を怠るなどし、後続車両と衝突し、乗客2人が負傷した。九州運輸局は運行する長崎電気軌道に改善指示を出したが、今年6月にも追突事故が起きた。また、鹿児島市電では4月、停車中の車両に後続車両が追突する事故が発生。8、10月には脱線事故もあった。

 日本大の綱島均特任教授(鉄道工学)は「路面電車の運転士は車に注意しながら運転し、一人で料金の収受や乗客の乗降確認なども行わなければならず、負担が大きい」と指摘。そのうえで「設備の更新、働き方改革にも取り組み、運転士の負担を軽減し、働きやすい環境を作る必要がある」としている。

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