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小学館の新文芸雑誌、創刊号は驚きの税込み510円……「小説を気軽に楽しんで」

読売新聞 / 2024年12月16日 15時30分

「GOAT」の刊行記念のトークイベントに登壇した金原さん(中央)と小川さん(左)。右は書評家のスケザネさん(11月29日、東京都内で)

 新しい文芸雑誌が、相次ぎ存在感を発揮している。小学館は11月、「小説を、心の栄養に。」とうたう「GOATゴート」を創刊した。河出書房新社が2022年に始めた「スピン」は9号まで刊行され、好評だ。分野を横断して作品を掲載し、読書の扉を開いている。(池田創)

「GOAT」◎小学館 分野超え 500ページ

 「さあ、一緒に、物語を探す旅に出かけましょう。」

 文芸雑誌「GOAT」創刊号の表紙をめくると、ヤギのキャラクターとともに、小説の世界へいざなう言葉が目に飛び込んでくる。再生紙を使った500ページを超す雑誌は柔らかな手触りで、じんわりと手になじむ。

 創刊号の特集は「愛」で、市川沙央さんや尾崎世界観さんらが愛にまつわる小説を寄せたほか、韓国作家のパク・ソルメさんの邦訳などが並んだ。他にも町田そのこさんのエッセー、最果タヒさんの詩なども掲載する。「ジャンルや国境を越える」ことを掲げており、純文学、ミステリー、SFなどくっきりジャンルが分かれている既存の文芸雑誌への挑戦心がにじむ。

 三橋薫編集長(45)は「これまでの文芸雑誌は、初めての人には買いづらい面もあった。もっと外に開いていかないと、読書人口は増えない。小説を気軽に、カジュアルに楽しんでもらいたい」と語る。

 誌名の由来は紙を愛してやまないヤギと、ネットスラング「Greatest Of All Time」(かつてない)な文芸誌にしたいという思いを込めた。創刊号は510円(税込み)と手に取りやすい価格に設定した。

 版元の小学館は漫画や児童向け書籍が刊行物の柱で、「文学界」の文芸春秋や「群像」の講談社などに比べると、文芸雑誌の分野は後発だ。

 出版不況で、小学館は刊行していた「本の窓」「きらら」を紙の雑誌として出すことをやめ、「STORY BOX」を昨年秋にデジタル化した。紙の文芸雑誌が一誌もない状態が続いていた。社内有志から紙の雑誌を出したいという声が上がり、今回の創刊につながった。三橋編集長は「他社さんに比べると後発だが、後発だからこそチャレンジできる面もある」と語る。

 11月29日には、刊行記念のトークイベントが東京・下北沢の書店で開かれ、作家の金原ひとみさん、小川哲さんが文芸誌の現状などについて意見を交わした。

 小川さんは「小説雑誌を読んでいる人は少なく、作家の収入面のフォローの面が大きい」と指摘。「体力のある小学館が今後GOAT単体で黒字化することができたら、雑誌の革命になる」と期待を寄せた。

 金原さんは創刊号掲載のラッパーのAwichさんの対談に触れ、「文芸だけで盛り上げていくのは難しいので、色んな分野と一緒に手を組んでいくのは効果的だと思う」と語った。

 イベントはネット視聴も含めて200人以上が参加し、読者の関心の高さを感じさせた。次号は来年5月頃の刊行を予定しているという。

「スピン」◎河出書房新社 書き手多彩

 河出書房新社は創業140周年となる2026年のカウントダウン企画として、オールジャンルの季刊雑誌「スピン」を22年に創刊した。16号限定で、現在9号まで刊行している。

 声優の斉藤壮馬さんをはじめ、幅広い分野で活躍する書き手の文章を載せる。尾形龍太郎編集長(49)=写真=は「様々な文章に触れることで、読書の世界を広げることができる」と雑誌の意義を語る。

 創刊号は初版1万部で、口コミで読者を着実に増やし、現在は1万8000部を発行する。「書店からの注文や定期購読もあり、おかげさまで好評です」

 誌名には、「日常に読書のしおりを」をコンセプトに、忙しい日常に挟まって立ち止まらせる「栞=スピン」のような存在、日常に少しの「変化(回転=スピン)」を与える雑誌を目指すという思いが込められている。「中身の充実はもちろん、紙にこだわったグッズなども展開して、読者を増やしていきたい」

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