川淵三郎が選手に求める「ひたむきさ」、コーナーキックへ向かう選手に「開始5分でなぜ歩く」
読売新聞 / 2024年12月10日 10時0分
サッカー・Jリーグ初代チェアマンで、日本サッカー協会会長などを歴任した川淵三郎さんが、読売新聞ポッドキャスト「ピッチサイド 日本サッカーここだけの話」に出演。女子サッカーへの期待や女子サッカーリーグ「WEリーグ」について、そしてワールドカップ(W杯)誘致への思いなど、番組MCの元男子日本代表の槙野智章さんと語った。
小規模スタジアムが必要
「3000人で満席になれば(スタジアムの)雰囲気が出てくるし、一緒に応援する気分になる。そういう雰囲気をどうやってつくっていくか」
集客に苦戦するサッカー女子「WEリーグ」について、川淵さんはサポーター目線に立って、数千人規模の小規模スタジアムが必要だと訴える。
「応援する側も一体感が生まれてくるし、スタジアムがいっぱい入ってると選手もやる気がおきる。国立競技場に1万人が入ったところで、(見え方は)閑散としている」
昨シーズンのWEリーグの入場者数は、1試合平均で1723人。前シーズンと比較して約1・23倍に増えたが、目標とする5000人には遠く及ばない。
「浦和レッズが(女子サッカーの浦和レッズレディースを)持っているよね。埼玉スタジアムでは大きすぎ。(約2万人収容できる)浦和駒場スタジアムでもまだ大きいよ。大きいと感じさせない雰囲気をどうやってつくり出すか」
「俺も同じこと言われた(笑)」
川淵さんは女子サッカーのプロリーグについて、当初は懐疑的だった。
「女子のプロリーグをつくりたいと僕のところに説明に来た。僕はスタジアムや報酬問題を含めて『可能性はまるでない、やめた方がいい』って言った。田嶋(幸三・当時サッカー協会会長)がね、自分としてはやりたいと。世界一にもなったし、女子サッカーは発展するからと。じゃあ、もうしょうがないから、『やれば』というぐらいのことを言ったんだよね」
しかし、川淵さんはJリーグ設立当時のことを思い返して翻意する。
「Jリーグをつくるときに俺も同じこと言われた(笑)。『こんなのできるわけない』って。だから、女子は応援しなくちゃなって意思を変えたんだ」
WEリーグは9月、Jリーグの野々村芳和チェアマンがWEリーグ理事長にあたるチェアに就任し、男女のリーグトップを兼任することになった。
「JリーグをあげてWEリーグを応援していこうとしているに違いない。Jリーグをつくるときに女子チームも一緒につくれと(各クラブチームに)言いたかったけど、男子ですら成功するかどうか分からなかった。その当時に(女子チームをつくるよう)言っていたら『負担になるから勘弁してくれ』ってことになったと思う。今はそういう(JリーグとWEリーグが連携する)方向に行かないと、女子サッカーは観客動員などでうまくいかない」
サポーターに楽しんでもらうために
Jリーグチェアマン時代から、来場者を満足させることに意識を向けてきた。
「(サポーターに満足してもらう)基本は、選手がひたむきに90分動き回るということ以外ないんだよね。なのに、コーナーキックに行くときに、ゆっくりゆっくり歩いて行くのを見てるとね。だから、現場に行くと腹立つことが多いんだよ(笑)。負けてたら、走って行くわけだろ。開始5分でなんで歩くんだ。疲れてねぇだろ。で、コーナーキックやると必ず水を飲むだろ。飲むなとは言わないけど、決まったように飲まないといけないと思ってるのか、とかね」
こんなことも語った。
「選手は、お客さんから給料をもらってるという意識を持つこと。そう思ってる選手は少ないんじゃないか。意識することで、どうすべきかという次のステップに行くと思う」
番組MCの槙野さんから、選手たちに直接伝えることを提案されると、「伝えてもなぁ……(笑)。『何を年寄りが言ってんだよ』っていう話になる。でもね、それが大事だと思うよ」と思いを語った。
来場者に思い出や体験を持ち帰ってもらおうと、試行錯誤をするJリーグのクラブチームも多い。
「川崎フロンターレとかはJリーグの模範生みたいなとこがあるよ。試行錯誤で色々やればいい。うまくいかなきゃ、次のことを考えればいい。スタジアムに来て良かったって感じるのは、面白いグッズが売ってるとか、食べ物がおいしいとか、試合が終わった後に選手と話ができるとか」
欧州リーグでは試合後に選手と話せる特典付きのチケットもあるという。
「ヨーロッパの場合は選手と話せる部屋があって、試合が終わったらやるでしょ。ある程度の入場料金を払った人にしかしないけど、そういう場を積極的に設けた方がいいんじゃないかと思う」
もう一度、日本でW杯を
番組の最後、川淵さんがサッカーのサポーターに向けてメッセージを語った。
「僕が日本サッカー協会の会長時代に、『2050年に日本でワールドカップを開催して、日本はそこで優勝する』と言いましたけれども、もっと早く実現できるのではないかと思います。でも、やはりもう一度、日本でW杯を開催して、みんなに喜んでいただければなと。あのときも日本中が盛り上がりました。さらに盛り上がるだろうし、W杯を開催したことで日本のスタジアムが一気に変わったんですよね。そして今、長崎や広島などにサッカー専用のスタジアムができた。観戦する人の立場に立った環境づくり、スタジアムづくり、そういったものをこれからもJリーグのクラブは追求してほしいと思います」
プロフィル
川淵三郎(かわぶち・さぶろう)
日本トップリーグ連携機構会長、Jリーグ初代チェアマン。早稲田大学、古河電工サッカー部でプレー。サッカー日本代表として1964年東京五輪に出場。現役引退後は古河電工監督を経て、80年~81年に日本代表監督。Jリーグチェアマン、日本サッカー協会会長(キャプテン)として「日本サッカーの強化」と「地域スポーツの振興」に力を注いだ。2009年に旭日重光章、15年に文化功労者。1936年、大阪府生まれ。
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