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101回目の箱根路は「3強」「3冠」に注目…名ランナーたちが語り合う箱根駅伝の今と昔

読売新聞 / 2024年12月10日 11時9分

大後栄治(だいご・えいじ)さん 1964年、神奈川県生まれ。日体大マネジャーでチーム運営を担う。神奈川大コーチで97、98年箱根駅伝2連覇。98年から2024年1月まで監督。関東学連副会長。

 来年1月2、3日に第101回東京箱根間往復大学駅伝競走が行われるのを前に、「第101回箱根駅伝シンポジウム」が11月22日、東京都千代田区のよみうり大手町ホールで開かれた。「箱根路と世界」をテーマに、武井隆次・元エスビー食品監督、尾方剛・広島経大監督、諏訪利成・上武大監督、中本健太郎・安川電機監督らが、学生時代の鍛錬を糧にして世界の舞台へ羽ばたいた経験を語り合った。

武井隆次さん「瀬古さんの教えは『世界目指せ』」

 ――まず最初のテーマは「私の箱根駅伝」。武井さんは4年連続区間賞で、瀬古利彦さんの指導を受けた。

 武井 4年連続といっても2区は走っていないから偉くない。瀬古さんからは、口を開けば世界を目指せ、箱根駅伝は通過点だから考えなくていいと、言われていた。

 ――尾方さんは2年生で10区区間賞のうえ、優勝のテープを切った。

 尾方 1年目は故障で全く走れず、純粋に大舞台で走れるうれしさを味わいながら走った。ただ、その後は全身脱毛症になり、3、4年生ではつらい思いばかり。早大の渡辺康幸選手など一流ランナーを見て、自分もそこを目指さないと、という思いが強過ぎ、ストレスを抱えてしまった。

 ――諏訪さんは3年で2区。日大の山本佑樹選手らと走った。

 諏訪 1区が日大と一緒に来ると聞き、山本選手と1対1で走れる機会はそうはない、設定タイムに邪魔されたくないと思った。それでスタート直前に腕時計を外し、走り出した。

 ――中本さんは7区を1度だけ走った。

 中本 結果として区間16位。輝かしい先輩方の記録からはかなり劣るが、そういう選手が世界にいけたことを、日が当たっていない箱根の選手たちの勇気にしてもらえれば。

 大後 拓大OBが、五輪や世界選手権の代表選手になる割合は高い。何か秘密があるのでは。

 中本 在学中はそれほど言われなかったが、当時監督の米重修一さんが卒業後、箱根ではなく、世界へ羽ばたける選手を育てるための練習をしたと話していた。そのおかげで、実業団に入ってから花開いた。

諏訪利成さん「渡辺康幸さんは伝説」

 ――来場者からの質問。「歴代の箱根ランナーで一番強かったと思う選手、印象的だった選手は誰か」

 武井 早大で二つ下の渡辺康幸君。彼の2区での走りは本当に強かったという印象を持っている。

 尾方 私も同学年の渡辺康幸。高校時代からスーパースターで、彼に勝ちたくて関東の大学を選んだほど。同世代で彼に勝てる選手はいなかった。それだけすごいランナーだった。

 諏訪 私も渡辺さん。私の同学年に順大の三代直樹選手がいるが、彼が4年生で渡辺さんの2区の区間記録を破った時、うれし涙を流し、「渡辺さんの記録に勝った」と喜んだ。渡辺さんは私の中では伝説です。

 中本 4年の時、山登りの5区で突如現れたスターが、2学年下だった順大の今井正人選手。それから3年間、山で活躍した。初代山の神はすごかった。

中本健太郎さん「世界で活躍する土台できた」

 ――次は今回のメインテーマ「箱根路と世界」。どんな意識で大学4年間を過ごし、箱根で得た経験をどう世界で生かしたのか。

 武井 国学院大の平林清澄選手が今年の大阪マラソンで勝ったが、箱根の練習量はマラソンで勝てるほど。箱根へ向けて地道な努力をすることは、マラソンにつながるのだと思う。

 尾方 ハーフマラソンの距離を走る箱根駅伝のためには、30キロなどの練習が主になる。それで平林君はマラソンを2時間6分台で走った。私もその距離を走り込んだ経験と、箱根の華やかな舞台を走れたこと、その後の苦しい思いが全てつながり、世界で戦えた。

 諏訪 将来マラソンを走りたくて、一番近いのは箱根駅伝を走ることだと思っていた。ハーフマラソン以上の距離となる2区、9区の23キロを走ることで、マラソンが走れるようになるという思いはあった。

 中本 米重監督は3000メートルや5000メートルの日本記録を作ったので、スピード主体の練習かと思っていたら、全く逆で週に30キロを2本、3本と走り込んだ。私が社会人になり、マラソンに転向した時、長い距離を苦もなく走れた。大学4年間で、世界で活躍できるベースを作ってくれた。

 大後 長野県での夏合宿で拓大とは度々一緒になり、トラックで3万メートルを走っていたのを思い出した。それも、1週間に2回ぐらい。すごいことをしているなと思ったが、マラソンで成功する選手が出てきているということは、捨ててはいけない方法だと思う。

尾方剛さん「オリンピックのメダル目指せ」

 ――続いてのテーマは「パリ五輪で見えたもの」。パリ五輪の男子マラソンでは、拓大出身の赤崎暁選手が6位入賞、早大出身の大迫傑選手が13位、東農大出身の小山直城選手が23位という結果だった。

 武井 二つの大きな上り坂があるコースで、男女とも一つ目の坂でレースが動いた。鍵は上り下りの巧拙。日本勢は記録的には世界に及ばなかったが、技術的に対応して、男女で入賞者が1人ずつ出た。ただ、メダルを取るには体力が足りず、改善が必要だ。

 尾方 かなり厳しいコースで、逆に日本人にもチャンスがあるコースだと思っていた。赤崎選手はかなり上りの練習を取り入れ、それが成果に表れた。日本人が途中、トップを走る映像はなかなか見られない。そういう走りができて、自己ベストで6位入賞したというのは良かった。

 ――今後の日本選手の可能性については。

 尾方 皆、現実的に目標は「入賞」と言っている。しかし、海外から評価されるのはメダリスト。入賞で満足するのではなく、選手もスタッフも、メダルを取ることをもっと目指してほしい。そういった意識づけ、モチベーションを上げるものを、これから作っていかないといけない。

 大後 先日、オランダのレースに男女の学生10人を連れて行ったが、そういう経験を大学生のうちにさせなきゃいけない。「箱根から世界へ」と言っているが、それには世界を知ることが必要だと思っている。

 諏訪 やはり言霊というものがあると思う。自分の目標は言って、行動すれば近づいてくる。赤崎選手も、一番苦しいところで前に出て勝ちにいった。レース前半なら誰でも前に出られるが、苦しい時に前に出て、勝ちをたぐり寄せるのが大事。それができた選手がいるので、そこに追いつく選手が出てくれば、もっと世界に近づく。

 中本 赤崎選手は大学の後輩で、春先に合同合宿をした際もレベルの高い練習をしていた。世界選手権や五輪では暑い中でのレースや、厳しいコースになることもあり、そこで日本人らしいレースをすれば入賞やメダルに近づける。東京、パリ両五輪で男子は6位に入り、女子も今回6位入賞した。次のロサンゼルス五輪では、目指さなければメダルには届かないと思う。それを公言できる選手が出てくるのが楽しみ。

大後栄治さん「新世代の優勝監督見たい」

 ――次は「101回大会の見どころ」を聞きたい。

 武井 「3強それぞれの強み」。青学大、駒大、国学院大が3強で、出雲と全日本の両駅伝は国学院大が勝った。しかし、この10年では青学大が7回勝っている。また、95回大会以降は連覇がなく、前回敗れたチームがリベンジを果たす形だ。勢いか、連覇か、リベンジか。本命は青学大では。

 尾方 「3強3冠」。出雲、全日本では、国学院大、駒大、青学大、創価大の4位までが同じ並びで、上位3チームが抜けている。国学院大は勝てば初めてで、3冠へのプレッシャーを感じていると思う。その状況で、出雲、全日本のように力を発揮できるかが、優勝争いの鍵を握ると思う。

 諏訪 「10人目」。出雲、全日本、箱根と、距離も走る人数も増えていく。今回の予選会も10人目の記録が大きく左右した。エースは大学を代表して走る経験が多いが、9人目、10人目の選手はそういう機会が少ない。優勝争いの重圧の中、どれだけ力を発揮できるのかを、楽しみにしたい。

 中本 「3冠VS王者」。勢いがある国学院大に、前回優勝の青学大、力のある駒大と、3校の構図になる。そこではエース対決で勝ったチームが勢いづく。エース対決が楽しみ。

 大後 「初優勝」。新世代の優勝監督を見たい。今一番、勝利をたぐり寄せるメンタリティーを持っているのは、国学院大の前田康弘監督だと思う。

変わるチームマネジメント

 ――これもアンケートから。「多様性の時代に、監督がチームマネジメントしていく上で重要な点は」

 武井 選手が練習の中で疑問があった場合、しっかり答えてあげられるマネジメントが必要だと思う。

 尾方 箱根駅伝に勝つ意味では、選手を普通に走らせること。要は練習の力どおりに走らせることができるかどうか。注目度の高い箱根駅伝で、重圧や緊張を解きほぐせるかが大切。

 諏訪 選手が学生なので、選択肢を少しずつ増やすやり方にしている。いきなり自由にしても、何をしていいか分からない。一つずつ選択肢を多くすれば、見える世界も広がっていく。選択肢を分かりやすく伝える形でやっている。

 中本 チームの方針を示し、様々な意見を取り入れながらも、チームとして求めるところに向かうという指導をしている。

 大後 最近話題になるのがサーバント型マネジメント。自分が前に立つのではなく、チームにリーダーシップを取れる者を配置し、支援型のリーダーシップをとる。それが、最近の学生たちには受けるやり方だ。

 ――最後に「101回大会へ期待すること」。

 武井 ブレーキや棄権のない、ハイレベルな熱い戦いを期待したい。

 尾方 前回の2区、3区のような、しびれる走りが全区間で見たい。

 諏訪 世界に行きたいという選手が、一人でも多く出てきてほしい。

 中本 一人一人が主役になれる大会。出場する選手は、本当に頑張ってほしい。

主催=関東学生陸上競技連盟、共催=読売新聞社、特別後援=日本テレビ放送網、後援=報知新聞社、特別協賛=サッポロホールディングス、協賛=ミズノ・トヨタ自動車・セコム・敷島製パン・NTTドコモ

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