キラーT細胞が感染細胞を攻撃、映像で「未来の医療の姿を見せたい」…万博は人類共通の課題解決の場に
読売新聞 / 2024年12月14日 5時0分
万博考 祭典の意義<2>
19世紀に始まった万博は、自国の科学技術の高さを競い合う見本市の要素が強かった。グローバル化の波を受け、博覧会国際事務局(BIE)は1994年、「現代社会の要請に応えられるテーマ」を各万博で設けることを決定。環境や食料、エネルギー問題など、人類が直面する地球規模の課題への解決策を共有する場に転換した。
「科学は病気や災害から命を救うことができる。それこそが人類の幸福につながる」。京都大医生物学研究所の河本宏教授(63)は力を込める。
大阪・関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。関西には、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に代表される先端医療技術に強い大学・研究機関が集積していることを背景に設定された。
河本教授が創業した京大発の再生医療ベンチャー「リバーセル」(京都市)は、iPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)から作った免疫細胞「キラーT細胞」が新型コロナウイルスなどの感染細胞を攻撃している映像を万博で展示する。
2013年、河本教授はがん細胞を攻撃するキラーT細胞をiPS細胞から作製することに世界で初めて成功した。この治療法は新型コロナなどの感染症にも使える可能性がある。ウイルスに感染した細胞を認識する遺伝子をキラーT細胞に導入すればウイルスを撃退できるためだ。
未知の感染症にも対抗できる武器となり、次のパンデミック時には100日以内に治療薬として患者に届けることを目指す。「免疫細胞の中でも圧倒的に強く、究極の治療法となる。次の世代に未来の医療の姿を見せたい」と意気込む。
人類の将来を脅かす課題の一つが、深刻化する気候変動による災害級の暑さだ。国内でも熱中症の死者数が年間1000人を超えており、夏場の万博運営を心配する声が強まっている。
神戸大などの産学連携チームは、万博会場の3次元データや日々の気象データを基に、スーパーコンピューターを使って翌日の熱中症リスクを高精度に予測する技術を開発。会期中の暑さ対策に生かされる計画だ。
同大の大石
世界銀行は海面上昇などの影響で、2050年までに2億人以上が移住を余儀なくされると推計。NPO法人「気候ネットワーク」(京都市)の田浦健朗事務局長(68)も「多くの人が参加する万博で危機感を共有する必要がある」と指摘する。将来世代の命を輝かせる道筋をどれだけ示せるかが問われている。(大阪科学医療部 松田祐哉、松田俊輔)
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