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大学生「前向き休学」増加中、新卒を担保したまま留学や起業し就活有利に…「メリットしかない」

読売新聞 / 2024年12月14日 15時30分

運営するNPO法人のスタッフとオンラインで打ち合わせをする平井さん(大阪市中央区で)

 起業や留学を理由に、大学を休学する学生が増えている。文部科学省の2023年度調査では「就職・起業」を理由にした休学は4年前の1・4倍になり、「留学」は経済事情などを抑えて初めてトップになった。就職に有利な「新卒」という条件を担保したまま、将来のためにキャンパス外での経験を積み自分の能力を伸ばす戦略として選ばれているようだ。(新井清美)

◆学生という“看板”

 「本格的に事業を運営する力はまだないが、学生という“看板”を使える。うまくいかなければ、新卒として就職活動をすればいい。休学にはメリットしかない」

 関西大社会安全学部(大阪府高槻市)の平井登威とおいさん(23)は、昨春から休学し、自身で設立した精神疾患の本人や家族へのサポートを提供するNPO法人「CoCoTELI(ココテリ)」の理事長を務めている。4年前から学生団体として手掛けてきた活動で、休学は、それを法人化して軌道に乗せるためだった。

 平井さん自身も、親のうつ病を経験。家具やガラスを壊す暴力もあり、毎日機嫌をうかがいながら過ごした。幼い時は病気のことを知らされておらず、「怖いし嫌だけど、それが日常だから仕方ない」と感じ、周囲にも語れなかった。

 学生団体として活動を始めたのは、静岡県の実家を離れて関大に入学した2020年の冬、SNSで似た経験をした人と知り合ったのがきっかけだ。初めて自身の経験を明かすと、心がほぐれた一方、精神疾患の患者家族へのケアがほとんどないと気づいた。

 ココテリでは、患者家族の居場所づくりとして、オンラインで話をしたり、相談したりできる場を提供している。休学期間は来春までの2年間。相談が無料のため、収入は継続的な寄付集めが必要といった課題も残るが、平井さんは「最も大変な創業時に専念できた。事業運営の基本を理解でき、復学後も続けていける土台ができた」と強調する。

◆留学初のトップ

 平井さんのように、積極的な理由で休学を活用する学生は少なくない。

 文科省の23年度の調査では、大学や短大などを休学した学生は8万9201人で、うち5372人(6%)が「就職・起業」を理由に挙げた。就職・起業は19年度に初めて入った項目で、同年の3768人から大幅に増加した。

 「海外留学」を理由にした休学は13・7%(前年度比1・8ポイント増)で、「精神疾患」(12・6%)、「経済的困窮」(11・9%)を上回り、09年度以降の同種の調査で初めてトップになった。

◆経済的負担の軽減も

 学生の起業などを支援するNPO法人「ETIC.」(東京)は10年代以降、起業や就業体験などを目的とした休学を後押ししてきた。日本では新卒一括採用が主流のため、卒業してから様々な経験を積むという選択肢を取りにくい。同法人の伊藤淳司さんは「大学で授業さえ受ければいいと考える学生は減っている。SNSで情報が入りやすくなり、意欲が高い周りの学生に影響を受けるケースも多い」と話す。

 休学による経済的な負担が軽減されたことも一因だ。国公立は以前から費用がかからないが、私立では休学中も授業料の支払いを求める大学もあった。それが今は、年数万~10万円程度の「在籍料」のみですむのが主流になってきている。

 山本繁・大正大特命教授(起業家教育)は「各大学で起業家育成や留学支援のプログラムが浸透し、地域創生に携わる『地域おこし協力隊』なども含め、学生の選択肢が増えた。大学も、知識だけでない総合力を身につけるよう推奨している。自身の能力開発のため、休学して学外に活動の場を探す動きは今後も広がるのではないか」と話している。

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