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CO2をプラスチック原料に変える細菌、循環型社会実現の切り札に期待…「もったいない」世界に訴え

読売新聞 / 2024年12月16日 5時0分

水素酸化細菌を研究するカネカの佐藤俊輔さん。袋から食器類まで様々なプラスチック製品を作り出せる(兵庫県高砂市で)=前田尚紀撮影 

万博考 祭典の意義〈4〉

 フラスコに二酸化炭素(CO2)を注入すると、透明な液体が乳白色に変わっていく。液体中の細菌がCO2を「エサ」にして、増殖しているのだという。

 「水素酸化細菌」。地球上のあらゆる場所に生息し、CO2を生分解性ポリマー(高分子)に変えて蓄える。ポリマーはプラスチックの原料となり、不要になれば微生物によって分解され、自然に返る。

 兵庫県高砂市にある化学大手カネカの研究所。1990年代から、この細菌の研究を続けてきた。より多くのCO2を吸収して多量のポリマーを蓄え、多様なプラスチックが生み出せる菌種を作る技術を持つ。吸収量は藻類の50~70倍。2030年までに量産に向けた実証実験を始める計画という。

 世界のプラスチックの生産量は年間4億トン超と推計され、大半が化石燃料由来だ。大量に廃棄される現状は、地球の温暖化と海洋汚染を招いている。

 研究を主導するカネカの佐藤俊輔さん(45)は「石油の代替となり得るプラスチックの原料は、もはやCO2しかない。循環型社会を形作る『ド直球』の技術になる」と力を込める。

      ◎

 この研究成果は日本が誇る先進技術として、来年4月に開幕する大阪・関西万博で紹介される予定だ。政府のパビリオン「日本館」の目玉の一つとなる。

 日本館は「循環」をテーマに掲げる。環境への負荷を抑えつつ、持続的な経済成長を追うには、世界的規模の循環型社会の実現が不可欠だ。日本の顔となるパビリオンは、そのメッセージを打ち出す場となる。

 日本は古来、循環を大切にする文化を育んできた。構想段階から日本館に関わる京都大総合博物館の塩瀬隆之准教授(51)は「割れた器を修復する『金継ぎ』のように、日本にはモノを使い尽くす文化がある。目指すべき『循環』の姿を日本が世界に伝えていくことは大事な使命だ」と語る。

 万博では、日本館以外にも循環を意識した展示が目立つ。バイオ燃料の原料となる藻類を高効率で培養、CO2と水素から都市ガスの原料のメタンを合成――。国内の企業や研究機関がこぞって最新の技術を披露する。

      ◎

 背景には、国連が30年までの達成を目指すSDGs(持続可能な開発目標)がある。大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。その理念はSDGsと一致する。18年に誘致を勝ち取れたのも、この点が国際社会に高く評価されたことが大きい。

 だが、SDGsの実現は極めて難しい。国際研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」の試算では、17の目標の下にある169のターゲットのうち、達成できそうなのは16%にすぎない。

 万博はどのような貢献ができるのか。国連大使を務めた大阪大の星野俊也名誉教授(65)は「『もったいない』の精神が根付く日本は環境問題の解決を先導する技術やポテンシャル(潜在力)がある。世界中の人が集う万博をSDGs達成への協力を強化する機会とすべきだ」と指摘する。

(大阪経済部 都築建、佐藤一輝)

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