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煙の中で鳴り響くスマホ、壁に残された手の跡…救助を指揮した消防隊員が初めて語った「想像を超す壮絶な現場」

読売新聞 / 2024年12月16日 7時45分

大阪・北新地クリニック放火殺人事件発生後の救助活動の流れ

 26人が犠牲になった大阪・北新地クリニック放火殺人事件で、隊員らの活動を指揮した大阪市消防局の消防司令・西本隆史さん(49)が事件後初めて取材に応じた。事件発生から17日で3年。西本さんは「想像を超す壮絶な現場だった。教訓を受け継いでいくことが使命だ」と語った。(鈴木彪将)

 「高層建物火災発生」「要救助者は約20人」。2021年12月17日午前10時20分頃、大阪市北区を管轄する北消防署に連絡が入った。数分後に現場の雑居ビルに到着すると、4階のクリニックの入り口付近が激しく燃えていた。

 西本さんの指示を受けた隊員らが室内に入ると、床に倒れ込んだ人が次々に見つかり、約1時間かけて全員をビルの外に運び出した。ビル北側に設けた応急救護所はすぐに救助された人たちでいっぱいになった。大きなけがややけどはなかったが、呼びかけても応答はなかった。必死に心臓マッサージを行ったが、命を救えず、事件後に無力感を口にした隊員もいた。

 救助活動の終了後、西本さんがクリニックの中に入ると、熱気と煙が残る狭い一室でスマートフォンの着信音が鳴り響いていた。誰かが犠牲者の身を案じて電話をかけていたのだろうか。すすだらけの壁には、暗闇の中で窓を探した際にできたとみられる手の跡が所々に残っていた。

 西本さんは昨年4月、119番通報を最初に受ける指令情報センターに異動した。「隊員らは力を尽くしたが、もっと何かできたのではないか」との思いが今も残る。「電話口の先で想像を超える出来事が発生しているかもしれない」と胸に刻み、部下たちに第一報を正確に聞き取ることの重要性を伝えている。

 ◆大阪・北新地クリニック放火殺人事件=2021年12月17日、大阪市北区のビル4階の心療内科クリニックが放火され、院長や患者ら男女26人が死亡した。大阪府警は22年3月、現場から搬送後に死亡した谷本盛雄容疑者(当時61歳)を殺人や現住建造物等放火などの容疑で書類送検し、大阪地検が容疑者死亡で不起訴とした。

命守る方法の指導、延べ1万件超

 事件では、ビル4階の1か所しかない階段付近にガソリンをまかれて放火され、逃げ場を失った多くの患者らが一酸化炭素中毒で死亡した。

 同市消防局は22年10月から、地上への階段が一つしかなく、3階以上に不特定多数が出入りする建物などに出向き、万が一の際に命を守る方法を利用者らに指導する「セルフ・レスキュー・コーチング」を行っている。

 消防が現場に到着するまでの間、▽窓から身を乗り出して煙を吸わないようにする▽一時避難できる場所を確保する▽扉の隙間を粘着テープなどで塞ぐ――などの実践的な内容だ。今年10月までに延べ1万835件実施した。

 また、市消防局は、様々な構造の建物火災に応じた消防・救助活動を行うため、効率的な隊員の配置や搬送方法などの検証を独自に続けている。

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