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来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」に出版界期待……ムック本や小説、評伝など関連本が続々

読売新聞 / 2024年12月23日 15時30分

 来年放送されるNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺つたじゅうえいがのゆめばなし~」の主人公、蔦屋重三郎つたやじゅうざぶろうに関心が集まっている。戯作者の山東京伝さんとうきょうでんや浮世絵師の喜多川歌麿きたがわうたまろなど、江戸文化を彩った異才を見いだした人物だ。時代を先導した「仕掛け人」の数奇な人生を紹介した本も続々と刊行されている。(多可政史)

「仕掛け人」蔦屋重三郎の真実

 ドラマを楽しむ前に、良質な評伝で蔦屋重三郎の軌跡をたどってみたい。

 鈴木俊幸『新版 蔦屋重三郎』(平凡社ライブラリー)は、書籍文化史を専門とする研究者による名著だ。江戸時代後半の天明期と言えば、当時の多くの人が楽しんだ読み物である黄表紙・洒落しゃれ本といった戯作に狂歌、浮世絵などに代表される都市文化が華やかな時代だ。本書では現代の我々が思い描く「天明文化」「天明文学」そのものが、重三郎の「幻術によって創り上げられた部分が少なくない」と評する。当時の「前衛たち」の輪に入り、独自の「ブランド」を築き上げた異能の一代を活写している。

 増田晶文『蔦屋重三郎』(新潮選書)は、サブタイトルで重三郎を「江戸の反骨メディア王」と位置づける。編集担当者は「本の冒頭に人気作家による推薦文を入れたり、売れっ子作家を囲い込んだり。編集者視点で見ると、重三郎は我々の仕事の先駆けのようなことをしていた人物だったことが分かる」と指摘する。

 綱紀粛正が図られた「寛政の改革」では言論統制を強める幕府の指針にたてつき、財産を没収された。そのおもねらない姿に、江戸の庶民たちは喝采を送る。当時、発展する「メディア」だった出版を武器に大衆の心をつかんだ「プランナー」としての足跡は、インターネットやSNSが発達する現代にも示唆に富む。

2人の天才

 ムック形式の本も相次いで刊行されている。Pen Books『蔦屋重三郎とその時代。』は重三郎が制作・流通に携わった書籍や浮世絵のカラー写真を豊富に掲載した。編集担当者は「大河ドラマの副読本としても手に取っていただけたら」と話す。

 浮世絵研究の第一人者、浅野秀剛さんのインタビュー「歌麿と写楽、蔦重が見いだした2人の天才。」も掲載した。喜多川歌麿の美人画、東洲斎写楽の役者絵という江戸期の2大ヒット作の仕掛け人だった重三郎の功績を紹介している。

 別冊太陽『蔦屋重三郎』に収録されている日野原健司「蔦重と葛飾北斎」は、寛政年間(1789~1801年)に深い仲を築き、武者絵や役者絵など数多くの作品をともに手がけた両者の関係が次第に希薄になった過程を分析する。一方で、初代に比べ影が薄い「二代蔦重」との関係の方が良好だったとの指摘も興味深い。稀代きだいの商才を誇った「初代蔦重」でも、作家との相性があったことを物語る。

 中央公論新社からは、『歴史と人物21 蔦屋重三郎 江戸文化の仕掛け人』が刊行された。

現代にヒント

 重三郎をモデルにした小説も刊行されている。谷津矢車やつやぐるまあくがれ写楽』(文芸春秋)は、彗星すいせいのように現れて活躍した後、姿を消した「謎の絵師」写楽の真相を追究する江戸の版元に対し、写楽を売り出した張本人である重三郎がなぜか妨害しようとする様子を描いた歴史ミステリーだ。

 「企画の鬼」「敏腕プロデューサー」「理想の起業家」――。たぐいまれなる重三郎の手腕からか、書店に並ぶ本を見渡すと、現代のビジネス書に通じるような副題や宣伝文句が付けられている本が目立つ。重三郎の波瀾万丈はらんばんじょう人生から、正解のない現代社会を生き抜くためのヒントが見いだせるかもしれない。

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