戦争の残忍さを伝えるこの絵本は「目覚まし時計」……ポルトガルのベストセラー画家は語る
読売新聞 / 2024年12月23日 15時20分
不穏な世界 構想の出発点
『戦争は、』アンドレ・レトリアさん(51)
〈戦争は、凶悪な顔をいくつも持つ〉
〈戦争は、沈黙だ〉
全文「戦争は、」で書き出すポルトガルの絵本は、暖色をほとんど排したイラストとともに、戦争の残忍さを重々しく伝える。親子の共作で絵は画家のアンドレさん、文は父で詩人のジョゼさん。英語や韓国語など21言語に翻訳されている。
アンドレさんは欧州各地で右派が台頭する現状を目にして、絵本の構想を温め始めた。「不穏な世界の現状が出発点になった」。4年間の創作期間を経て、母国で刊行されたのは2018年。その後も、世界では、ロシアによるウクライナ侵略や、パレスチナ自治区ガザでの戦闘が続いている。
「悲劇的な歴史を繰り返してはいけない。この絵本で注意を向けられれば」
虫の大群、大量の軍用機、降り注ぐ爆弾――。ページをめくれどめくれど、不快感や不安をあおるイラスト表現が繰り返されていく。アンドレさんは、今作を「目覚まし時計」に例える。
「小さな音でとてもすてきな音楽が流れる時計は、誰も目覚めさせない。暴力的な大きな音で人を起こす時計にしたかった」と話す。
絵本に登場する独裁者の顔は決して見えない。それは、誰でもないと同時に、誰でもあり得る。今年は、母国で独裁政権が終わりを迎えた「カーネーション革命」から50周年の節目だ。「人々は常に権力志向。いつ何時でも抑圧する側になるのは非常に簡単です」
14歳で新聞などに絵が採用され、18歳頃に父と共作を始めた。現在は、画業だけでなく、自身が設立した児童出版社「パト・ロジコ」の経営者でもある。アヒルを意味する「パト」と、病理の意を持つ「パトロジー」を重ねた社名という。
「それと、感情を意味するパトスと、論理を意味するロゴス(の組み合わせ)」。一拍おいて、「後付けです」。ちゃめっ気を見せた。木下眞穂訳。(岩波書店、2200円)真崎隆文
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