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起源は江戸の「談合」、「良質で安価なモノ」求めなければ社会は衰退…「やめられない麻薬」の声も

読売新聞 / 2024年12月17日 5時0分

 物価高が止まらない。そうした中でも、業界でそろって値上げすることは独占禁止法で禁じられている。モノの値段を勝手に決めると、何がダメなのか――。規制強化の歴史を振り返りながら、日常生活への影響と根絶に至らない背景を探った。

「競争なし」経済・社会は衰退

 国や自治体などの公共工事や公共調達に関する入札で、事前に受注事業者や受注金額などを決める行為は「談合」。事業者らが相互に連絡を取り合い、各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量を共同で取り決める行為は「カルテル」と呼ばれる。共に独禁法の禁止行為だ。

 直近の数年間だけでも、身近な商品の値上がりが止まらない中で電力やごま油、学生服などの値段を不当に引き上げたり、東京五輪の大会運営を巡る競争入札で落札企業を事前調整したりといった、独禁法違反が疑われる事案が次々と判明した。

 不正を調査する公正取引委員会の幹部は「たとえ物価高対策でも、販売額や入札額の事前調整はアウト。需給バランスや本来の市場価値を無視した人為的な価格操作は違法だ」と話す。

 談合で国や自治体が高額の発注を繰り返せば、納税者に負担がのしかかる。カルテルで価格競争がなくなれば、商品が高値で固定されて消費者が不利益を被る。努力せずに安定した利益が得られるため、企業の技術革新や国内産業の発展も停滞する。

 談合の歴史は古い。江戸幕府は1661年に「入札者の申し合わせで1番札から4番札が逃げ、5番札が落ちる(落札する)から注意せよ」と警戒を促す内部文書を発出。江戸中期の儒学者・新井白石も自叙伝「折たく柴の記」で「(入札者側が)百金、千金を(幕府側の監視役である)奉行にいれ」と官製談合の存在に触れている。

 明治期に大規模な土建工事が始まると、巨額の利権を求めて業者間の受注調整が横行。ライバル会社に謝礼を支払って落札を断念させたり、話し合いを拒んだ会社を力ずくで入札会場から追い出したりする「談合屋」も昭和期にかけて幅を利かせた。

 入札談合が明確に違法となるのは、刑法に談合罪を設けた1941年。戦前は石炭の価格安定や産業振興のため、紡績や製鋼など24業種で容認されていたカルテルも、47年の独禁法施行で禁止になった。

 ただ、戦後も水面下での事前調整は継続された。「業務屋」などと呼ばれる各企業の専従部隊が飲食店などで情報交換し、利益確保に奔走した。かつて談合に参加した経験のある西日本の企業経営者は「過当な値下げ競争は共倒れや手抜き工事を招きかねない。仕事を順番に回し、零細企業も救える談合やカルテルは『必要悪』との考えが根底にあった」と振り返る。

 平成に入り、多額の賄賂を受け取った政治家が「天の声」で受注業者を決める官製談合が表面化。現職知事やゼネコン幹部らの相次ぐ逮捕で世論の批判が高まり、2006年には発注者側へ刑事罰を科す改正官製談合防止法が成立した。

 ゼネコン側も05年に「談合決別」を宣言したが、その直後に名古屋市の地下鉄工事で受注調整を行っていたことが明らかに。その後も広告大手や損害保険大手などにメスが入り、23年には電力大手によるカルテルで過去最高額の約1010億円の課徴金が命じられた。

 公取委OBの田辺治・白鴎大教授は「『良質で安価なモノ』を追い求めなくなれば、経済や社会は衰退する。一方、談合やカルテルは『麻薬』で、違法とわかっていてもやめられない。不当な値上げで泣くのは消費者。厳格な処分を続け、企業側の意識を高める必要がある」と指摘する。

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