データ参考に魔球「完コピ」、タブレット持ち歩く伊藤大海2冠…3割打者が激減する「投高打低」の背景
読売新聞 / 2024年12月21日 17時33分
[球景2024 投高打低]<上>
プロ野球では近年、科学的なアプローチによる投手の進化が著しい。今季も一層、顕著となった「投高打低」の背景と、現状打破を試みる打者側の取り組みを追った。
数値が示した「直球より強いカット」
最多勝と最高勝率を獲得し、パ・リーグの投手2冠に輝いた日本ハムの伊藤は今シーズン、勢いよく150キロ前後の球を高めに投じ、何度もバットに空を切らせた。1球ごとの球速、球種を知らせる速報サイトでは、度々「直球」と表示された。バットに当てた打者も、打ち損じるまでそうだと疑わなかったことだろう。実はこの球、直球ではなかった。
伊藤の直球は打者の手元でわずかに曲がる「真っスラ」気味。球速や伸びで突出しておらず、ファウルで粘られることも多かった。対策を練る中で、それほど使っていなかったカットボールの球質に着目したという。
最新の計測機器で変化量や回転数などを調べてみると、興味深いデータが出た。似た軌道でありながら、「真っスラ」気味の直球より自身のカットボールは強いボールで「推進力がある」。直球と勘違いさせれば空振りや凡打を誘える。使わない手はない――。投球割合を増やして有効活用し、打者を抑える引き出しの一つに転化させた。
これまで球界の主流だったスライダーやカーブ、フォークなど大きく変化する球と、直球の間には一定の球速差がある。最近では伊藤のカットボールのように直球の球速帯に近く、直球と同じ軌道から小さく変化する「中間球」が普及している。さらに大谷(ドジャース)が投げて認知度が高まった「スイーパー」など新たな球種も出てきた。
「昔は『あの人しか投げられない』『魔球』と言われた時代もあったが、今や『完コピ』できる」。スポーツ脳科学に詳しい柏野牧夫・NTTフェローはそう語る。
以前は教わったとしても習得が難しかった技術が、計測機器を使えば「自分の感覚がデータとしてすぐ反映され、イメージが違う他人に言われて混乱するより学習が早くなる」。実際に伊藤がカットボール習熟の参考にしたのは米大リーグ(MLB)の投手。これまで新たな球種を独学で習得した時と同様に、MLBの公式データサイトで調べながら感覚を擦り合わせた。
20年前は36人いた3割打者、わずか3人
一方、2022年に打率3割4分7厘で首位打者を獲得した同僚の松本剛は、今季、2割台前半に沈んだ。「直球と同じ腕の振りで変化球を投げる投手が増え、空振りを奪えるような球種も増えている。投手のレベルが上がり、成績を残し続けるのが難しくなっている」と実感を込める。
「一流」の証しとされてきた打率3割は今や高い壁だ。セ・パ両リーグで今季の到達者は3人。1950年の2リーグ制導入後、過去最少だった昨季の5人を下回った。20年前は36人いたことを踏まえると、もはや「絶滅危惧種」に近づいているかもしれない。
直球の平均球速上昇も拍車をかける。データスタジアム社(東京)によると、12年はセ・パ共に140キロ前後だったが、今季はセが146キロ、パが147キロに達した。それに伴って中間球の球速も上がっており、柏野氏は「球種を見極められるポイントが自分に近いほど打者が反応に使える時間が短くなる」と指摘。速度が増すことで中間球はより効果的になるという。
伊藤はタブレット端末を持ち歩き、自身やMLBのデータから常にヒントを探す。「僕らが小中高でやってきた感覚のままプロでやると違う競技に近いくらい、ものが違う。勉強できないと置いていかれる」と言う。そして、「投高打低」の現状を踏まえて強調する。「1点の重みが増している」
打者は「予測能力」カギ
打者が投球を打つ際、脳による複雑な情報処理が短時間で行われている。マウンドから150キロ台の球を投げた場合、本塁到達までおよそ0・4秒。打つ動作は神経や身体の特性上0・2秒ほどかかるため、投球フォームや球の最初の挙動などで到達点を読む瞬発的な「予測能力」が鍵を握る。
柏野氏によると、予測能力を高めるには実際に打席に立って学習するのが最も効果的だという。球速アップや変化球の精度が上がるなど、投手側の進化が止まらない以上、その球に慣れていくしかないそうだ。
打者が過去の投球データから練った対策を逆手に取ろうと試みる器用な投手もいる。
意図的に球種の割合や変化球の曲げ方を変える日本ハムの伊藤もその一人。「データという『答え』が見えるが故に、疑いがなくなる打者もいる。繊細な打者こそズレを感じる可能性がある。今年は投球データの平均から毎回ずらすように投げていて、プラスに感じた」
「投手側は『問題』をどんどん難しくできる」と柏野氏。球種やコース、間の取り方の選択権は投手側にあり、打者は常に受け身だ。投高打低の流れを止めるのは容易ではなさそうだ。
この記事に関連するニュース
-
巨人菅野が記録した自己最高「8.5」 35歳でも続ける進化…復活の裏側に2倍増の“魔球”
Full-Count / 2024年12月13日 13時51分
-
阪神 新助っ人候補は“魔球使い” 高速ナックル武器の前フィリーズ・ネルソン最有力
スポニチアネックス / 2024年12月13日 5時19分
-
侍J選出の26歳を支えた2つの“宝刀” 驚異の24.6%…データが示す右腕の強み
Full-Count / 2024年12月6日 20時11分
-
鷹先発陣はなぜ改善された? 3.63→2.50に劇的変化…背景にある昨年との鮮明な違い
Full-Count / 2024年11月30日 21時0分
-
投げ合った44歳のMLB90勝左腕が見た22歳・高橋宏斗の伸びしろ 「能力は素晴らしい。あとは…」
THE ANSWER / 2024年11月22日 6時33分
ランキング
-
1ドジャースに史上最高ぜいたく税 160億6800万円
共同通信 / 2024年12月21日 14時41分
-
2カブスがLAで佐々木朗希との面談を予定、シカゴ地元記者報道 編成本部長「日本人にとって魅力的な行先」
スポニチアネックス / 2024年12月21日 8時9分
-
3【F1】角田裕毅は来季が最終年か ホーナー代表「彼を引き留める意味があるだろうか」
東スポWEB / 2024年12月21日 14時39分
-
4テニス選手への誹謗中傷投稿、半数近くが「怒ったギャンブラー」 と判明 調査
AFPBB News / 2024年12月21日 16時24分
-
5ペア“りくりゅう”「自信持っていたけど…」ミス猛省 フリーへ切り替え「絶対に大丈夫」
スポニチアネックス / 2024年12月21日 16時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください