北新地放火殺人3年、亡くなった院長の妹は出所者の孤立防ぐ傾聴活動…「生き直し手助けしたい」
読売新聞 / 2024年12月17日 9時57分
26人が犠牲になった大阪・北新地クリニック放火殺人事件で、死亡した容疑者の男は別の事件で服役後、孤立や困窮から自暴自棄になったとされる。17日で発生から3年。亡くなった西沢弘太郎院長(当時49歳)の妹、伸子さん(47)は「再犯を防ぐため、自分にできることをしたい」との思いを胸に、出所者の話に耳を傾けている。(北島美穂)
伸子さんは昨年9月中旬、36人が犠牲になった京都アニメーション放火殺人事件(2019年7月)の公判を京都地裁で傍聴した。元受刑者が孤立を深め、ガソリンで放火したとされる点で北新地の事件と共通性があり、伸子さんも関心を持っていた。
法廷では、被害者参加制度を使った遺族から「被害者にも家族がいることを考えたことはあるか」と聞かれ、青葉真司被告(46)は「そこまでは考えていなかった」と答えた。伸子さんは兄の子どもが頭に浮かび、涙がこぼれた。
兄は夜間も働く人の悩みに親身に向き合い、復職を支援する「リワークプログラム」に力を入れていた。伸子さんは事件後、兄の熱意を知り、心のケアについて学びながら、元患者らが集まるオンライン交流会に参加。元患者らの悩みに耳を傾けてきた。
「どうしたら事件を防げたのだろう」。傍聴後もその答えを探すうち、「再犯を防げなかったからではないか」と思った。そして「容疑者にも話を聞いてくれる人がいれば、結果は違ったかもしれない。自分にできるのは出所者に話を聞き、内面を見つめ直してもらう機会を作ることだ」と考えるようになった。
今年2月から、出所者らの就労支援に取り組む「ワンネス財団奈良本部」(奈良県大和高田市)に足を運び、出所者らの話に約1時間、耳を傾ける活動を始めた。これまでに向き合ったのは約40人。薬物やギャンブルの依存に悩む人も多い。不安な気持ちを否定せずに受け止め、「あなたは大丈夫」「うまくいっている自分をイメージして」と励ますと、「前向きになれた」「支えになった」という言葉が返ってきた。
60歳代の男性とは生い立ちや離婚の話で終始し、悩みに踏み込めていない気がした。だが、男性が最後に「本当は奥さんと話したかった」と語るのを聞き、「話を聞いてくれる場所がほしかったんだな」と感じた。
11月上旬には更生支援のあり方を考える同財団主催のシンポジウムに参加し、「話を聞くことで、満たされる人がいる。そうやって支えることは誰にでもできる」と出席者に語りかけた。
来年は、月2回だった出所者への傾聴活動を毎週に増やし、刑務所にも足を運び、受刑者の話も聞く予定だ。伸子さんは「冷たくあしらわれると、人は孤立する。対話を続け、一人でも多くの人の生き直しを手助けできれば」と話している。
◆大阪・北新地クリニック放火殺人事件=2021年12月17日、大阪市北区の雑居ビル4階の心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」にガソリンがまかれて放火され、院長や患者ら男女26人が死亡した。患者だった谷本盛雄容疑者(当時61歳)も現場から搬送後に死亡し、大阪府警は22年3月、殺人や現住建造物等放火などの容疑で書類送検し、大阪地検が容疑者死亡で不起訴とした。
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