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原発の廃炉作業、核燃料デブリ取り出しの現場を歩く…福島第一原子力発電所ルポ

読売新聞 / 2024年12月20日 16時0分

今年3月に完成した防潮堤

 東京電力福島第一原発で進む廃炉作業。核燃料デブリの試験的な取り出しに初めて成功したばかりの2号機を含む1~4号機の前を11月20日に歩き、事故を免れた5号機の炉心直下に入った。現場では、廃炉作業で最大の難関となる核燃料デブリの本格的な取り出しなどに向けた準備が進んでいた。(編集委員 森太)

1~4号機前は「防護服」なし

 バスは、防潮堤の上を走っている。1~4号機の海側に今年3月に完成したばかりの防潮堤は、長さ約1キロ、海抜13.5~16メートル。幅は約5メートルあるので、頂上部は道路として活用されており、作業員らを乗せた構内用のバスが行き交う。

 4号機の手前の南側でバスを降りて北へ向かって歩いた。ヘルメット、マスク、手袋をしているが、防護服は着ていない。途中で霜のついた長いパイプ群があり、同行した東電社員は「地中を凍らせるための塩化カルシウム溶液が流れています」と説明した。1~4号機の原発建屋の周囲では、地盤を凍らせて「遮水壁」をつくり、地下水を汚染源に近づけない対策をとっている。

 パイプ群の近くにそびえるのが、4号機の建屋だった。炉心溶融した1~3号機とは異なり、事故当時、4号機は定期検査で運転停止中だったため炉心溶融は免れた。だが隣の3号機から水素が流れ込み、建屋が爆発し、大きく損傷した。1535体の使用済み核燃料は取り出し済みで、現在はその時に使った大型カバーに覆われている。その北隣にあり、建屋の上部にロールケーキのような形のカバーが付いているのが3号機だ。2021年に566体の使用済み核燃料の取り出しが完了し、カバーの中にはクレーンなどが設置されている。

 その北隣が、11月7日に初めて核燃料デブリの取り出しに成功した2号機となる。建屋下部に取り出し装置を入れた際の入り口があった。2号機は事故当時、1号機の水素爆発の衝撃で建屋上部のブローアウトパネルが開き、水素が外部に流れたため爆発はなかったが、内部の線量が高い。使用済み核燃料615体が残されており、現在は、除染作業とそれらの取り出しに向けて、燃料取り出し用設備の設置工事が行われている。

「線量計」が鳴り響く、1号機建屋の鉄骨はむき出し

 2号機から1号機へ向かう途中の排気筒の近くで、突然、身につけていた線量計が大きな音で鳴った。20マイクロシーベルトを被曝(ひばく)するごとに鳴るといい、この日の私の取材での被曝量は、100マイクロシーベルト以下に設定されているという。そこから、建屋上部の鉄骨がむき出しになった1号機を見上げた。上部はカバーを取り付ける工事の真っ最中で、地上にはその建築部材が置かれ、作業員らが黙々と働いていた。1号機には、392体の使用済み核燃料が今も残されている。

事故を免れた5号機の炉心直下へ

 5号機は、6号機とともに、1~4号機の場所から北へ少し離れたところにある。震災当時は、定期点検のため運転停止中で、電源喪失もなかったため事故は免れた。5号機は、2号機などと同じ構造をしていることから、デブリ取り出しに向けた装置の設計などで参考にされてきた。

 原子炉圧力容器を納める格納容器には、メンテナンス時に外側から器具を入れるための穴がある。ハッチ式の蓋で開閉する穴の内径は55センチ。2号機からのデブリ取り出しでは、この穴の入り口から滑り台のように圧力容器の真下へと延びるレールの上方に、取り出し装置を挿入していった。装置の先端にカメラとグリッパーが付いており、先端部分を格納容器内部で底に向かって垂直に下ろしていき、底部で小石状のデブリをつかんで回収した。

防護服着て靴下は3枚ばき、暗くて狭い空間での作業は…

 線量が高いという格納容器の入り口で防護服を着て、靴下は3枚ばきにして中に入った。炉心直下に入るには、そこからもう一度、靴を履き替えて、腰をかがめて狭い入り口を入る。円筒状の内部は狭く、6畳間ほどもない空間は立って歩くこともできない。頭上には、圧力容器があるはずだが、核燃料に挿入する制御棒を動かす装置や、中性子の発生量を監視する計測器などが数多く飛び出していて見ることができない。金網状の床から下をのぞくと、約3メートル下に底部が見えた。

 2号機では、照明のない暗闇の中をライトの明かりを頼りに装置を遠隔操作しながら作業を進めた。核燃料は、機器類とともに溶け落ちて、底部に粘土状に広がり、その上に小石状のデブリが転がっているという。1~3号機のデブリは推定880トン。私は、5号機の狭い空間の中で、すべてのデブリを取り出す作業がいかに困難かを想像した。

 回収したデブリは、茨城県の日本原子力研究開発機構の大洗原子力工学研究所など4か所の研究施設で性状を分析し、今後のデブリ回収計画に役立てられる。東京電力は今後、今回使用したテレスコ式装置や、準備中のロボットアームの使用を含めた回収を予定している。デブリの分析と試験的な取り出しを重ね、それぞれの号機の技術的回収方法も考えながら回収の規模を拡大させていく計画だ。

廃炉作業は第3期に、完了目標は2051年

 デブリの試験的回収に成功したことで、廃炉作業は第3期に入った。2019年12月に改訂された中長期ロードマップでは、第1期を「使用済み燃料取り出しまでの開始期間」、第2期を「核燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間」と規定。2021年12月からの第3期は「廃止措置終了までの期間」としている。ロードマップより3年遅れで始まったことになる。建屋の解体や廃棄物の処分を含む廃炉完了の目標は、2051年だ。

 2011年3月11日の東日本大震災の地震と津波による原発事故から13年8か月たった。道のりはまだまだ長い。

【英語版で読む】
Fukushima N-plant Decommissioning Work Enters New Stage; Challenge of Removing Debris Plain to See

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