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幻の「1銭陶貨」、額面の70万倍にも…50万枚発見後に取引価格が急上昇

読売新聞 / 2024年12月18日 15時0分

1銭陶貨

 太平洋戦争末期に製造されたものの未発行に終わり、流通しなかった陶器の貨幣「1銭陶貨」が、インターネット上の取引で高騰している。終戦後に流出した一部が以前から売買されていたが、今年10月、京都市内で50万枚超が発見されたと造幣局が公表し、にわかに脚光を浴びた格好だ。(松田卓也)

1枚7000円も

 「未発行」「昭和20年」。フリーマーケットアプリ・メルカリでは18日現在、そんな売り文句とともに、1銭陶貨が1枚4000円前後で取引されている。保存状態が良好だと7000円の値を付けたケースもあった。

 陶貨は「幻の貨幣」と呼ばれ、知る人ぞ知る骨董こっとう品。基本は茶色だが、焼き上がり具合により濃淡にばらつきがある。以前から古銭コレクターの間で取引されたり、各地の博物館で展示されたりしてきた。

 メルカリの取引では、半年以上前だと、保存状態にかかわらず2000円前後。価格が上昇したのは、造幣局の公表がニュースで広まった後だ。

 新たに発見された50万枚は造幣局で保管され、出回ることはない。古銭も取り扱う出張買い取りサービス「福ちゃん」の運営会社の担当者は「世に出なければ、骨董品として値崩れしない。注目度が高まり興味を持つ人が増え、値段が上がったのだろう」とみる。

社内でうわさ

 大量の陶貨が見つかったのは京都市東山区の歯科器材メーカー「松風しょうふう」の敷地内の一角だった。

 1944年頃、当時の大蔵省造幣局は、銅やアルミなどが軍需物資として不足したため、陶貨の研究を開始。45年に委託先の京都市、愛知県瀬戸市、佐賀県有田町の民間3工場で約1500万枚が製造された。松風は委託先の一つ、京都市の「松風工業」(1967年に解散)の関連会社だ。

 結局、陶貨は終戦で発行されず、国は廃棄を決定。粉砕処分されたはずだが、詳細な記録は残っておらず、戦後の混乱で一部が流出し、ネット上で取引されている。

 松風工業の敷地を引き継いだ松風社内では「どこかに大量に埋まっているんじゃないか」とのうわさがあったという。

 昨年8月、社員が古い倉庫を整理していた際、木箱15箱を発見。中から大量の1銭陶貨が見つかった。岩崎滋文総務部長(58)は「『残っているかも』とは思っていたが、これほど大量だとは」と驚く。

10銭も存在?

 松風から連絡を受けた造幣局は、保管場所などを検討した上で譲り受け、今年10月に公表。それまでにも1銭陶貨約2000枚を所有していたが、その250倍もの量が一気に増えた。松風には、感謝状とともに100枚を贈呈。発見された50万枚を調べている。

 陶貨には、造幣局も37枚しか所有しておらず、ネット上では数万円単位で取引される「10銭陶貨」も存在する。その製造も松風工業に委託したとする記録が残っており、50万枚超の中に紛れている可能性もある。

 造幣局は、発見された陶貨を局内の「造幣博物館」で展示しているほか、大学や博物館など研究機関から申し入れがあれば、貸し出しや提供を検討する。担当者は「当時の製造技術などの解明がより進むのではないか」と期待する。

 造幣局は来年2月16日まで、造幣博物館で特別展「造幣局と戦争I」を開催中。松風で見つかった1銭陶貨の一部が展示されている。

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