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「芝居も文章も、うまさの先にはあまり広い世界はありません」…小泉今日子さんが大事にしている「恩師」の言葉

読売新聞 / 2024年12月18日 15時32分

トークライブ第1部で講演する小泉今日子さん(11月26日、札幌市中央区で)=古厩正樹撮影

 歌手、俳優、プロデューサーとして活躍する小泉今日子さん(58)の講演会「小泉今日子トークライブ」(読売新聞北海道支社主催)が11月26日、札幌市中央区の共済ホールで開かれた。読売新聞の書評欄「本よみうり堂」で2005年から10年間、読書委員を務めていた小泉さんが、人や本との「出会い」、歌や舞台などに対する思いを語った。来場者らから好評だった小泉さんのトークを詳報する。

「小泉今日子トークライブ」詳報<1>

〈第1部は、「私が出会った人~時が過ぎて今~」と題した小泉さんの一人語り。小泉さんが「恩師」と慕う、演出家 久世光彦くぜてるひこ さん(2006年死去)とのエピソードを中心に語った。小泉さんが読書委員になる橋渡し役も、久世さんだったという〉

 久世さんは、「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」といった面白いドラマを手がけていて、私も子供の頃から夢中で見ていました。私は16歳でデビューし、17歳で、「あとは寝るだけ」というドラマで久世さんと出会うことができました。

 久世さんの演出は、「アメとムチ」。お芝居が下手だとはっきり「下手くそ」と言い、上手にできた時は、本当に幸せになるぐらい褒めてくれました。もちろん、すてきなことをたくさん教わりました。

 あるドラマで、学生役の私が父、姉と3人で朝、駅まで歩くシーンがあり、久世さんは台本にない設定で、「歩く先に空き缶を転がしておいて、今日子が一人小走りで拾ってゴミ箱に捨てるようにしてくれ」と提案しました。「こういう女の子が世の中にもっといてほしい」という思いがあって、私も一人の女の子として勉強させてもらいました。

 私が文章を書くようになったきっかけも、久世さんでした。向田邦子さんについて書いたエッセー本の帯の文を考えてほしいと言われ、まだ20歳代の私が書いた拙い言葉をとても褒めてくださって、書くことが好きになりました。

 読書委員になるお話も、私と、読売新聞の担当デスクとの間に久世さんが入ってくださいました。会食したとき、私は「書いたものがつまらなかったらボツにしてください」と言い、デスクは「ボツにはしないです」と言って、互いに譲らない。すると久世さんは、私が席を離れている間に、「小泉に『ボツにする』って言ってくれ」とデスクを説得したそうで、話をまとめてくれたんです。久世さんは私の書いた書評が新聞に載ると、毎回、学校の先生の添削のように、ファクスで連絡を下さいました。

 私には、大事にしている久世さんの言葉があります。私が「空中庭園」という映画で主演をした時、久世さんがくださった手紙に、「芝居も文章も、うまさの先にはあまり広い世界はありません」と書いてありました。小手先だけでやってしまいそうなとき、「いけない、いけない」とこの言葉を思い出します。

小泉さんが語った久世さんからの手紙の内容

 「『空中庭園』を見ました。大きな目が不安そうに泳いでいた『あとは寝るだけ』の頃を思い出すと、ずいぶん大きくなったものです。あの頃は確か、15、16でしたね。

 その小泉が立派に主役を張っているので、とてもうれしく思いました。ただ、これ以上うまくなってはいけません。あなたが書いている読売新聞の書評も毎回読んでいますが、どんどんうまくなっていくので、感心すると同時に、少し心配になります。もっと自由な、のびのびした自分の言葉で書くといい。

 どこかいびつで間が抜けていて、ドジで子供っぽさがのぞいてみえる、そんな小泉らしさが、僕たちは楽しいのです。芝居も文章も、うまさの先には、あまり広い世界はありません。毎日、もっとびっくりしたり、ときめいたりしてください。お元気で」

 (「小説を書いてみたい」小泉今日子さん、心に留め実践する後輩女優の「いつも違う道」に続く)

◆こいずみ・きょうこ=1966年生まれ。82年にデビューし、歌手、俳優としてテレビ、映画、舞台、CMなどで活躍。2015年、自身が代表を務める「株式会社明後日(あさって)」を設立し、映画、舞台などのプロデュースも手がける。

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